「経理は残業が少ない」と聞いて志望したのに、月初と決算期は毎日遅くまで残っている。逆に、経理は決算で忙しいと聞いて応募をためらっている。どちらの方も、経理の残業が「いつ」「なぜ」発生するのかを知らないままだと、職場選びで同じ失敗を繰り返します。
この記事では、経理の残業がどの時期に集中するのかを年間カレンダーで整理し、公的統計で分かる所定外労働時間の水準、残業が少ない職場に共通する条件、面接で確かめる質問、AIで月次業務を短縮するプロンプトまでを解説します。
経理のキャリア全般の悩みは経理のキャリア完全ガイドにまとめています。
経理の残業は多いのか|統計と繁忙期の構造で確かめる
結論から言うと、経理の残業は「年間を通して多い」のではなく「特定の時期に集中する」のが実態です。厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年分結果速報)では、一般労働者の所定外労働時間は年換算で158時間、月平均にすると13時間程度です。経理だけを切り出した統計はありませんが、経理の残業はこの平均値の周りで、月初と決算期に山を作り、それ以外の時期は平均を下回る形になりやすい職種です。
経理の仕事は「締め」の連続でできている
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、経理事務の仕事を伝票の起票・仕訳、帳簿への記帳、月次・年次の決算書類の作成、税務申告に必要な書類の準備などと整理しています。これらに共通するのは、締め日が外から決まっていることです。月次決算は月初の数営業日、年度決算は事業年度末から2か月、税務申告は法令で期限が定められています。
期限が外から決まり、しかも締め日直前に作業が集中するため、経理の残業は「仕事量が多い」というより「仕事の到着時刻が偏っている」ことから生まれます。この構造を理解しておくと、残業が少ない職場の条件も、面接で聞くべき質問も、自然と見えてきます。
「経理は残業が少ない」も「決算期は地獄」も半分正しい
経理の残業について正反対の評判が並ぶのは、見ている時期が違うからです。月の中旬から下旬は、定常的な入出金処理と問い合わせ対応が中心で、定時で帰れる職場が多くあります。一方で、月初の締めと年度決算から申告までの期間は、締め日が動かせないぶん残業が発生しやすくなります。
同じ会社でも、会計ソフトのデータ連携が進んでいるか、締めのルールが社内に定着しているか、決算を担当できる人が何人いるかで、山の高さは大きく変わります。経理の残業の多さは職種の性質ではなく、職場の仕組みで決まる部分が大きいというのが、この記事で一番伝えたいことです。
企業規模と業種で残業の出方が変わる
同じ経理でも、企業規模と業種で残業の出方は変わります。上場企業とその子会社は四半期ごとに決算と開示があるため、年4回の山ができます。一方で非上場の中小企業は年度決算と月次だけなので山は年1回ですが、経理の人数が少なく1人あたりの守備範囲が広いため、月次の締めが重くなりがちです。
業種では、店舗や取引先の数が多く、現金取引や売掛金の件数が多い小売・卸売・飲食などは月次の照合作業が増えます。逆にサブスクリプション型や取引先が固定されている業種は、毎月の仕訳がパターン化しやすく、月次の負荷が軽い傾向があります。求人票を見るときは「経理の人数」と「月次の取引件数の多さ」を意識すると、残業の出方をある程度予測できます。
経理の残業が集中する時期|月次・四半期・年度決算・税務申告の年間カレンダー
経理の繁忙期は、月次決算・四半期決算・年度決算・税務申告の4つが重なる時期にできます。ここでは3月決算の会社を例に、年間のカレンダーを整理します。決算月が違う会社は、年度決算と申告の時期を自社の決算月に合わせて読み替えてください。
| 時期 | 重なる業務 | 残業の出やすさ |
|---|---|---|
| 毎月の月初(1〜5営業日) | 前月分の月次決算(証憑回収・仕訳・照合・試算表) | 中。会社の締めルール次第で変わる |
| 4月〜5月 | 年度決算(決算整理仕訳・監査対応・決算書類)、法人税・消費税の確定申告 | 高。年間で最も集中する |
| 6月 | 株主総会向け資料、住民税の特別徴収額の更新 | 中 |
| 7月・10月・1月 | 四半期決算(上場企業とその子会社) | 中〜高。上場企業は開示期限がある |
| 12月 | 年末調整 | 中。人事・労務と分担する会社が多い |
| 1月 | 法定調書・給与支払報告書・償却資産申告(いずれも1月31日期限) | 中〜高 |
年度決算から税務申告までが最大の山
3月決算の会社では、4月に決算整理仕訳と決算書類の作成、監査法人や税理士の対応が続き、5月に法人税と消費税の申告書を仕上げます。国税庁の案内では、法人税の確定申告書は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に提出することになっています。3月決算なら5月末が期限です。申告期限の延長を受けている会社でも、決算書の確定自体は先に済ませる必要があるため、4月から5月の負荷は大きく変わりません。
この時期の残業を左右するのは、日々の処理が期中にどれだけ正確に済んでいるかです。期中の仕訳が正確で、証憑が整理されていれば、決算整理は差分の確認で済みます。逆に、期中の処理が甘い会社では、決算期に1年分の修正が押し寄せます。
月初の月次決算は「締めのルール」で山の高さが決まる
月次決算は、前月分の請求書や経費精算を締め、仕訳を入力し、預金残高や売掛金・買掛金と照合して試算表を作る流れです。ここで残業が増える職場には共通点があります。締め日を過ぎても請求書や経費精算が届く、銀行明細を手で入力している、照合を担当者1人が抱えている、の3つです。
締め日が守られていない会社では、月次決算の締めが月の中旬までずれ込み、そのまま次の月初に重なります。「月次が締まるのが毎月15日過ぎ」という職場は、月初だけでなく月の半分が繁忙期になっていると考えてよく、残業の少なさを重視するなら避けた方がよい職場です。
1月の法定調書と償却資産申告は見落とされやすい
年末調整を12月に終えたあと、1月には給与所得の源泉徴収票などの法定調書、市区町村への給与支払報告書、償却資産申告書の提出が重なります。国税庁の案内では、法定調書の提出期限は原則として支払の確定した日の属する年の翌年1月31日です。年末年始の休みで営業日が少ないうえに、月初の月次決算とも重なるため、人事・労務と分担していない小規模な経理では、この時期も残業が増えやすくなります。
繁忙期の残業を減らすために期中にやっておくこと
繁忙期の残業は、繁忙期に頑張っても減りません。減らせるのは期中です。決算期に効くのは、月次の段階で決算と同じ精度まで仕訳を仕上げておくことです。具体的には、毎月の月次で減価償却費や引当金を概算で計上しておく、売掛金と買掛金の残高を毎月取引先ごとに照合しておく、固定資産台帳を期中に更新しておく、の3つです。
これができている会社は、年度決算が「1年分の見直し」ではなく「月次の延長」になります。転職先を見るときも、「月次で減価償却まで計上していますか」と聞くと、決算期の負荷の大きさを推測できます。
残業が少ない経理の職場に共通する3つの条件
残業が少ない経理の職場は、会計ソフトとデータ連携、締めのルール、人員の3つがそろっています。どれか1つが欠けると、その分だけ月初と決算期の山が高くなります。転職先を選ぶときは、この3点を求人票と面接の両方で確かめてください。
残業が少ない経理の職場に共通する条件
- 会計ソフトが銀行明細・クレジットカード・請求書データと連携しており、手入力が少ない
- 経費精算と請求書の締め日が社内ルールとして守られ、締めの遅れを経理が追いかけていない
- 月次決算と年度決算を担当できる人が複数おり、1人が抱え込んでいない
条件1: 会計ソフトとデータ連携が済んでいる
経理の残業を最も減らすのは、入力作業そのものをなくすことです。クラウド会計ソフトを使い、銀行明細やクレジットカードの明細が自動で取り込まれ、請求書もデータで受け取っている会社では、月次決算の入力工程がほぼ消えます。残るのは自動仕訳の確認と照合で、これは人が判断する仕事です。
逆に、紙の通帳を見ながら仕訳を手入力している会社や、会計ソフトはあってもデータ連携を設定していない会社では、月初の数日が入力作業で埋まります。求人票に「クラウド会計ソフト導入済み」「経費精算システム利用」と書かれているかどうかは、残業の少なさを測る一つの目安になります。
条件2: 締めのルールが社内に定着している
経理がどれだけ効率化しても、他部署からの証憑が期限どおりに届かなければ月次は締まりません。営業部門が請求書の発行を遅らせる、経費精算が翌月にずれ込む、という状態が常態化している会社では、経理が催促に時間を取られ、締めが後ろにずれます。
締めのルールが定着している会社では、締め日を過ぎた経費精算は翌月扱いにする、請求書の発行は営業ではなく経理が起点で行う、といった仕組みが決まっています。面接で「締め日を過ぎて届いた経費精算はどう扱っていますか」と聞くと、ルールが実際に運用されているかが分かります。
条件3: 決算を担当できる人が複数いる
経理の残業が慢性化する職場でよくあるのが、決算を締められる人が1人しかいない状態です。その人に月次・年度決算、税務申告、監査対応が集中し、年間を通して残業が続きます。人数が少ない会社でも、税理士事務所に決算業務の一部を委託していれば、社内の負荷は分散されます。
「経理は何人ですか」だけでなく「決算を締められる人は何人いますか」と聞くと、繁忙期の実態がより正確に分かります。経理が2人以上で、かつ決算を締められる人が複数いる職場は、産休や退職で1人抜けても残業が急増しにくいという点でも安心材料になります。
条件がそろっていない職場で働いている場合
いま残業が多い職場にいる方は、転職の前に3条件のどれが欠けているかを切り分けてください。会計ソフトの連携が未設定なら、設定を提案するだけで月初の入力作業が減ることがあります。締めのルールが守られていないなら、締め日後の経費精算は翌月扱いにする運用を上司と合意するだけで、催促の時間が消えます。人員が足りないなら、税理士事務所への委託範囲を広げる提案が現実的です。
提案が通らず、繁忙期の残業が年々増えている職場なら、仕組みで解決できない段階に来ています。その場合は、上の3条件を面接で確かめながら転職先を選ぶ方が、自分の時間を守れます。
面接と求人票で経理の残業実態を見抜く質問
経理の残業は、求人票の「月平均残業時間」だけでは分かりません。年間で平均すると少なく見えても、決算期に集中していれば体感はまったく違うからです。面接では、平均ではなく「いつ」「どれくらい」を具体的に聞いてください。
求人票の残業時間で見落としやすい3点
- 「月平均10時間」は年間平均であることが多く、決算期の残業が均されて見えない
- 「みなし残業◯時間を含む」の記載は、基本給に残業代が含まれており、実残業がその範囲内かは別問題
- 「残業ほぼなし」の求人でも、締めの遅れを経理が追いかけている職場では月初が長くなる
求人票の読み方
面接の前に、求人票の記載からも残業の出方はある程度読めます。見る順番は、経理の人数、使っている会計ソフト、業務範囲、残業時間の記載の4つです。
| 求人票の記載 | 残業が少ない可能性が高い | 残業が集中しやすい可能性がある |
|---|---|---|
| 経理の人数 | 2人以上で決算経験者が複数いる | 「経理担当1名」「1人目の経理」 |
| 会計ソフト | クラウド会計・経費精算システムを明記 | ソフト名の記載がない、Excel中心 |
| 業務範囲 | 月次・年次決算と記載され、税務は税理士に委託 | 経理・人事・総務・労務を兼務 |
| 残業時間 | 「繁忙期◯時間、通常月◯時間」と分けて記載 | 「月平均◯時間」のみ、またはみなし残業を含む |
「1人目の経理」や兼務の求人が悪いわけではありません。業務を設計する裁量が大きく、経験としての価値は高い一方で、残業を自分でコントロールする力が要る、という違いです。残業の少なさを最優先するなら、人数と分担が整っている職場を選ぶ方が確実です。
面接で聞く質問の例
質問は「残業は多いですか」のような答えづらい聞き方ではなく、業務の運用を確かめる形にすると、面接官も答えやすく、実態が見えます。
- 月次決算は毎月何営業日で締まっていますか
- 年度決算から申告までの時期、経理チームの平均的な残業時間はどれくらいでしたか
- 会計ソフトは何を使っていて、銀行明細や請求書のデータ連携はどこまで進んでいますか
- 締め日を過ぎて届いた経費精算や請求書は、どのように扱っていますか
- 決算を担当できる方は何人いますか。税理士事務所に委託している業務はありますか
これらの質問に具体的な数字や運用ルールで答えが返ってくる会社は、残業の管理ができています。逆に「時期によります」「人によります」で終わる会社は、残業が個人の頑張りに委ねられている可能性があります。
経理の残業と年収の関係も見ておく
残業の少なさだけで職場を選ぶと、年収が伸びにくい職場を選んでしまうことがあります。決算や税務を任される職場は繁忙期の負荷が大きい分、経験としての価値も上がり、次の転職で年収に反映されやすくなります。経理の年収相場と上げ方は経理の年収はいくら?年代・企業規模・資格別の相場と上げ方で整理しています。
また、残業だけでなく「経理はきつい」と感じる要因は、プレッシャーや評価のされにくさなど複数あります。繁忙期の負荷全体を整理したい方は、次の記事もあわせて読んでください。
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AIで月次業務を短縮する|経理の残業を減らすプロンプト
月次決算の中で、AIが時間を短縮できるのは「文章を作る」「異常を探す当たりをつける」「手順を整理する」の3つです。仕訳の正否や数字の最終判断はAIには任せられませんが、試算表の増減理由を説明する文章の下書きや、照合で確認すべき項目の洗い出しは、AIに任せると月初の作業時間を減らせます。
月次の増減分析コメントを下書きするプロンプト
月次決算のあと、経営層に前月比・前年同月比の増減理由を報告する会社は多くあります。この文章の下書きをAIに任せ、経理は数字の裏付けの確認に時間を使う、という分担が現実的です。会社の実名や取引先名は入力せず、勘定科目と金額だけを渡してください。
あなたは中小企業の経理担当者です。以下は当社の今月の試算表から抜き出した主要勘定科目の
前月比と前年同月比です。経営層向けの月次報告に載せる「増減の主な要因」のコメントを、
科目ごとに2〜3文で下書きしてください。
条件:
- 数字の妥当性は判断せず、「増減の要因として考えられる仮説」と「確認すべき証憑」を分けて書く
- 断定せず「〜の可能性があります」「〜を確認してください」の形で書く
- 前月比・前年同月比のどちらの変動が大きいかを先に述べる
- 専門用語は経営層が読める表現に言い換える
科目と増減:
売上高: 前月比 +12%、前年同月比 +4%
外注費: 前月比 +30%、前年同月比 +18%
旅費交通費: 前月比 -15%、前年同月比 +9%
売掛金残高: 前月比 +25%、前年同月比 +6%
出力された文章は、必ず証憑と突き合わせてから使ってください。AIは「外注費の増加は新規案件の開始が要因の可能性」といった仮説を出しますが、実際の要因は請求書と契約書でしか確認できません。AIに下書きを任せて経理が裏付けの確認に集中する形にすると、報告資料の作成時間は減らしつつ正確さは落ちません。
月次の照合で確認すべき項目を洗い出すプロンプト
月次決算の照合作業は、確認項目の抜け漏れが残業の原因になります。前月に見落とした項目を翌月に発見して手戻りする、というパターンです。自社の業務に合わせた照合チェックリストをAIに作らせ、月次のたびに更新していくと、確認の順番が固定されて作業時間が安定します。
あなたは中小企業の経理担当者です。月次決算の照合作業で確認すべき項目のチェックリストを
作ってください。当社の状況は次のとおりです。
- 従業員30名、非上場、3月決算
- クラウド会計ソフトを使用し、銀行明細とクレジットカード明細は自動連携済み
- 売上は請求書ベース(月末締め翌月末入金)、仕入は買掛金で管理
- 経費精算は経費精算システムで月末締め
出力の形式:
- 「預金」「売掛金」「買掛金」「経費」「固定資産」「その他」の区分ごとに箇条書き
- 各項目に「何と何を突き合わせるか」と「ずれていた場合に疑う原因」を1行ずつ添える
- 自動連携で確認が不要になっている項目は除き、人が判断する必要がある項目に絞る
出力されたチェックリストは、実際の月次で使いながら自社の実態に合わせて削ったり足したりしてください。AIが作るのは汎用的な雛形で、自社固有の取引や過去に起きたミスは経理担当者が加える必要があります。
使うときの注意
- 取引先名・個人名・口座情報は入力しない。勘定科目と金額の増減率だけで十分に下書きできます
- 会社が業務利用を認めているAIサービスを使う。入力内容が学習に使われない設定を確認してください
- 仕訳の判断や税務の判断はAIに任せない。判断は人が行い、AIは文章化と洗い出しに限定します
まとめ
経理の残業は、年間を通して多いのではなく、月初の月次決算と年度決算から税務申告までの時期に集中します。厚労省の毎月勤労統計調査(2025年)で一般労働者の所定外労働時間は年換算158時間ですが、経理はこの平均の周りで山と谷が大きい職種です。
山の高さを決めるのは職種ではなく職場の仕組みです。会計ソフトのデータ連携、締めのルールの定着、決算を担当できる人の数の3点がそろった職場は、繁忙期でも残業が抑えられています。面接では平均残業時間ではなく、月次が何営業日で締まるか、決算期の残業はどれくらいか、締めの遅れをどう扱っているかを具体的に聞いてください。
AIは月次の報告文の下書きや確認項目の洗い出しに使い、判断は人が行う。この分担ができる職場を選び、自分でも実践できれば、経理の残業は現実的に減らせます。
シゴトのホント編集部
「経理は残業が多い」も「少ない」も、どちらも誰かの職場の話であって、あなたの次の職場の話ではありません。締めの仕組みと人数を面接で聞くだけで、入社後の月初と決算期がどうなるかはかなり予測できます。聞きにくい質問ではないので、遠慮せず確かめてください。
参照ソース
- 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報(厚生労働省) — 一般労働者の所定外労働時間(年換算158時間)の根拠
- 経理事務 - 職業詳細(厚生労働省 職業情報提供サイト job tag) — 経理事務の仕事内容の整理
- 確定申告書の提出期限(国税庁) — 法人税の確定申告が事業年度終了の日の翌日から2か月以内である根拠
- 法定調書の種類及び提出期限(国税庁) — 法定調書の提出期限が翌年1月31日である根拠


