「経理は安定しているけれど、給料は高くない」と聞いて、今の年収が相場より低いのか、転職すれば上がるのか、判断がつかずにいませんか。求人サイトの「年収例」は会社ごとにばらつきが大きく、自分の立ち位置が分かりません。
この記事では、厚生労働省の賃金構造基本統計調査と職業情報提供サイト(job tag)を軸に、経理の年収の全体像、年代別・企業規模別の差、簿記・USCPA・公認会計士といった資格の効き方、そして転職とAI活用で年収を上げる手順を解説します。
経理のキャリア全般の悩みは経理のキャリア完全ガイドにまとめています。
経理の年収は平均約509万円|統計で見る全体像
結論から言うと、経理の年収は「全産業の平均と同じか、やや上」です。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、経理事務の平均年収は約509万円(令和6年賃金構造基本統計調査を基にした値・厚労省)です。性別で見ると男性が約582万円、女性が約433万円で、男女差が大きい職種でもあります。
比較の物差しとして、同じ賃金構造基本統計調査の一般労働者(短時間労働者を除く)の賃金は月額33万400円(令和6年・前年比3.8%増・厚労省)です。単純に12倍すると約396万円で、これに賞与が加わって年収になります。経理事務の約509万円は、賞与込みの推計値として見ると平均的な会社員と同じ帯に収まります。
「経理は給料が安い」と言われる理由
平均値は全産業並みなのに、経理の給料が安いと言われるのには理由があります。第一に、経理は事務職の中では専門性がある一方、営業のようにインセンティブで上振れしにくい職種です。第二に、女性比率が高く、統計上の女性の賃金水準が男性より低いことが職種全体の平均を押し下げています。第三に、未経験・派遣・パートの入り口が広いため、年収300万円台の求人が目につきやすく、それが「経理=安い」という印象を作っています。
雇用形態と地域で年収はどれだけ違うか
平均値の裏には、雇用形態と地域の差があります。経理は派遣・契約社員・パートの求人が多い職種で、これらは月給制の正社員より年収が低く出ます。job tag(厚労省)の年収は一般労働者(短時間労働者を除く)を対象にした推計のため、派遣やパートで働く人の実感より高めに見えることがあります。逆に言えば、正社員として決算まで担っている人が「自分は平均以下だ」と感じているなら、それは雇用形態ではなく勤め先の賃金水準に原因がある可能性が高いということです。
地域差も無視できません。賃金構造基本統計調査は都道府県別の賃金も公表しており、東京都を中心とした大都市圏と地方では同じ職種でも水準に差があります。地方で経理をしている人が都市部の求人の年収を見て落ち込む必要はなく、比べるべきは「同じ地域・同じ規模の会社」の水準です。
つまり、平均値だけ見ても自分の年収が適正かは分かりません。次の節から、年代・企業規模・資格の3つの軸で分解していきます。
年代別に見る経理の年収カーブ
年代別に見ると、経理の年収は20代で平均を下回り、30代後半で平均(約509万円)を超え、50代前半でピークを迎えます。job tag(厚労省)の年齢別データでは、経理事務の年収が最も高いのは50〜54歳で約580万円です。
これは経理という仕事の性質を反映しています。20代は伝票処理・入出金管理・経費精算といった定型業務が中心で、担当できる業務の幅がまだ狭い時期です。30代で月次決算・年次決算を一人で回せるようになり、40代で税務・開示・部下の管理を担うようになると、年収が伸びていきます。
| 年代 | 典型的な担当業務 | 年収の目安(統計と求人の傾向) |
|---|---|---|
| 20代 | 仕訳・経費精算・入出金管理・請求書処理 | 平均(約509万円)を下回る。300万円台後半〜400万円台が中心 |
| 30代 | 月次決算・年次決算・固定資産・税務申告の補助 | 30代後半で平均を超える。決算を任されるかで差が開く |
| 40代 | 決算の取りまとめ・税務・監査対応・後輩の指導 | 平均超え。管理職になれば600万円台も現実的 |
| 50代前半 | 経理課長・部長、経営層への報告、内部統制 | 職種内のピーク。job tagでは約580万円 |
年代別に見るときの注意点
- job tagの年収は賃金構造基本統計調査の「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与」の推計値です。残業代を含みます
- 参考として全産業では、男性の賃金は55〜59歳(月44万4,100円)、女性は45〜49歳(月29万8,000円)がピークです(令和6年・厚労省)
- 年代が上がれば自動的に上がるのではなく「担当業務が広がった人」の年収が上がっています
20代・30代で差がつくのは「決算経験」
同じ30代でも、年収に100万円以上の開きが出ることは珍しくありません。差を生むのは年齢ではなく、月次決算・年次決算を「自分で締めた」経験があるかどうかです。転職市場では、決算を任された経験がある人は「経理担当」、伝票処理や経費精算が中心の人は「経理補助」として扱われ、応募できる求人の年収帯が変わります。
20代のうちに意識したいのは、担当業務を毎年1つずつ広げることです。1年目は仕訳と入出金、2年目は売掛・買掛の管理、3年目は月次決算の一部、といった積み上げがあれば、30代前半で年次決算に手が届きます。30代で決算経験が無い場合は、今の会社で決算の補助を申し出るか、決算を担当できる規模の会社に移ることを優先する方が、資格の勉強を増やすより年収に効きます。
年代別の数字を見て「自分の年齢の平均より低い」と感じた場合、原因は年齢ではなく、担当業務の範囲か勤め先の規模にあることがほとんどです。
企業規模・上場企業で経理の年収はどう変わるか
同じ経理でも、勤め先の規模で年収は大きく変わります。令和6年の賃金構造基本統計調査(厚労省)では、一般労働者の賃金(月額)は大企業が36万4,500円、中企業が32万3,100円、小企業が29万9,300円で、大企業と小企業の差は月6万5,000円以上あります。賞与の差も加わるため、年収ベースではさらに開きます。
これは全職種の数字ですが、経理は企業規模の影響を特に受けやすい職種です。理由は、大企業ほど経理の業務が細分化・高度化され、その分の対価が賃金に反映されるからです。
上場企業の経理で求められること
上場企業の経理には、非上場企業にはない業務があります。
- 連結決算: 子会社の数字を集めて連結財務諸表を作る
- 開示業務: 有価証券報告書・決算短信を法定の期限内に作る
- 監査対応: 監査法人の質問に根拠資料を揃えて答える
- 内部統制(J-SOX): 業務プロセスの文書化と運用評価
これらは決算書を「作れる」だけでなく「説明できる」力が要る業務で、経験者の市場価値が高い領域です。転職市場で年収600万円以上の経理求人を見ると、連結・開示・監査対応のいずれかが応募条件になっていることが多いのはこのためです。
規模の大きい会社に移るときに確認しておきたいこと
- 業務が細分化されているため「経理全体を一通り経験する」機会は中小企業より少ない
- 決算期・四半期ごとの開示スケジュールが固定され、繁忙期の残業は避けにくい
- 求人の応募条件に「上場企業での経理経験」が付くことが多く、非上場から直接移るには連結や監査対応の経験が要る
一方で、中小企業の経理には「経理・財務・総務・人事を一人でこなす」ポジションがあり、年収は控えめでも業務の幅は広くなります。ここで得た経験を「決算を一人で締められる」と言語化できれば、次の転職で規模の大きい会社に移る材料になります。
資格で年収は上がるのか|簿記・USCPA・公認会計士の実態
資格は「年収を直接上げるもの」ではなく「年収の高い求人に届くためのもの」です。この違いを理解しておくと、資格の取りすぎで時間を失わずに済みます。
| 資格 | 難易度の目安(直近データ) | 年収への効き方 |
|---|---|---|
| 日商簿記3級 | ネット試験の合格率40.8%(2025年4〜12月・日本商工会議所) | 未経験の入り口。年収には直接効かない |
| 日商簿記2級 | ネット試験の合格率34.6%(2025年4〜12月・日本商工会議所) | 応募条件になっている求人が多く、選択肢が広がる。資格手当は月数千円程度が多い |
| 日商簿記1級 | 2級より大幅に難しい | 大企業・上場企業の経理で評価。税理士試験の受験資格にもなる |
| USCPA(米国公認会計士) | 英語での試験。AICPAが実施 | 外資系・海外子会社を持つ企業の経理で評価。英文会計と組み合わせて年収の上振れ要因になる |
| 公認会計士 | 令和7年試験の合格率7.4%・合格者1,636人(公認会計士・監査審査会) | 監査法人からの転身組が上場企業の経理・財務に入る。年収帯が変わる資格 |
簿記2級が「基準」になっている理由
経理の求人で最も多く応募条件に挙がるのは簿記2級です。2級から商業簿記に加えて工業簿記が入り、製造業の原価計算や連結会計の基礎まで範囲に含まれるため、「決算業務を任せる最低ライン」として企業が使っています。ネット試験の合格率は34.6%(2025年4〜12月・日本商工会議所)で、3級の40.8%より低く、計画的に学ぶ必要がある資格です。
ただし、簿記2級を取っただけで年収が上がるわけではありません。上がるのは「2級が応募条件の求人に応募でき、そこで決算業務の経験を積んだあと」です。
USCPA・公認会計士は「年収帯を変える」資格
USCPAは英文会計の証明として外資系企業や海外子会社を持つ企業で評価されます。英語で財務数値を説明できる経理は希少で、国内の簿記だけの人材と年収帯が分かれることがあります。公認会計士は合格率7.4%(令和7年・公認会計士・監査審査会)と難関ですが、監査法人での経験を経て事業会社の経理・財務に移る経路が確立しており、上場企業のCFO候補や経理部長の求人に届く資格です。
そのほかの資格の位置づけ
簿記以外にも経理に関わる資格はありますが、年収への効き方は目的によって変わります。税理士試験の科目合格(簿記論・財務諸表論)は、税務を担う経理や会計事務所で評価され、1科目でも合格していれば学習量の証明になります。給与計算や年末調整に関わる検定は、総務・労務寄りの中小企業経理で実務に直結します。経済産業省が推進する経理・財務の実務スキル検定のように、業務プロセスへの理解を測る検定もあります。
共通しているのは、どの資格も「取ってから経験を積む」までは年収に反映されにくいということです。資格を増やすより、今持っている資格に対応する業務を実際に担うことの方が、次の転職での評価につながります。
どちらも取得の時間投資が大きいため、「今の年収に不満があるから」ではなく「上場企業の開示や外資の英文会計に進みたいから」という業務の方向性が先にあるときに選ぶのが合理的です。
経理の資格全般については、経理への転職に必要な資格で級ごとの位置づけを整理しています。
経理の年収を上げる5つの方法とAI活用
経理の年収を上げる方法は、大きく5つに整理できます。順番も重要で、「担当業務を広げる」が先、「転職」はその後です。
1. 担当業務を「決算」まで広げる
年収が伸びる人と伸びない人の分かれ目は、月次決算・年次決算を自分で締められるかどうかです。伝票処理だけを続けていると、転職市場では「経理補助」として評価され、年収は上がりません。今の会社で決算の一部でも担当を申し出ることが、最も費用のかからない年収アップの手段です。
2. 簿記2級で応募できる求人を増やす
前述のとおり、簿記2級は多くの求人で応募条件になっています。取得すること自体より、「取得したことで応募できる求人が増える」ことが年収に効きます。
3. 企業規模の大きい会社・上場企業へ転職する
統計上、大企業と小企業の賃金差は月6万5,000円以上(令和6年・厚労省)です。決算経験があれば、規模の大きい会社への転職は年収を上げる現実的な経路です。厚労省の一般職業紹介状況では、令和7年度の有効求人倍率は全職業で1.20倍と、求職者より求人が多い状態が続いており、経験者が転職先を選べる環境です。
4. 税務・開示・管理会計の専門領域を持つ
「決算ができる」の先にあるのが専門領域です。法人税申告書の作成、有価証券報告書の開示、予算管理や原価分析といった管理会計は、いずれも判断が要る業務で、求人の年収帯が一段上がります。
転職時の年収交渉で使える材料
転職で年収を上げるには、交渉の材料を数字で用意しておくことが要ります。経理の場合、使える材料は次の3つです。1つ目は担当業務の範囲で、「月次決算を締めるまでの日数を短縮した」「年次決算と税務申告の補助を担当した」など、業務の粒度と成果を具体的に示します。2つ目は現在の年収の内訳で、基本給・賞与・残業代を分けて伝えると、応募先が提示額を設計しやすくなります。3つ目は統計上の相場で、この記事で挙げた企業規模別の賃金差や年代別の水準を根拠に、希望額の妥当性を説明できます。
転職エージェントを使う場合は、この3点を事前に整理して伝えておくと、エージェント側が企業に対して条件交渉をしやすくなります。「年収を上げたい」とだけ伝えるより、「決算経験があるので、応募先の同年代の決算担当者と同水準を希望する」と伝える方が通りやすい交渉になります。
5. AIで処理業務を減らし、判断業務に時間を回す
AIや会計ソフトの自動仕訳が普及した今、「処理が速い」ことは年収の根拠になりにくくなっています。逆に、AIを使って処理を減らし、浮いた時間で数字の分析や経営層への説明を担う人が評価されます。面接でも「AIをどう業務に使ったか」を具体的に語れると、自動化に前向きな人材として差がつきます。
実際に使えるプロンプトの例を挙げます。月次の増減分析のたたき台を作らせるものです。
あなたは事業会社の経理担当です。以下の当月と前月の科目別残高を比較し、
増減額が大きい順に上位5科目を挙げ、それぞれについて
「考えられる要因の仮説」と「確認すべき証憑や担当部署」を箇条書きで示してください。
断定はせず、仮説として書いてください。
【前月】
売上高: 42,000千円 / 売上原価: 25,000千円 / 販売費: 6,200千円 / 旅費交通費: 480千円 / 外注費: 3,100千円
【当月】
売上高: 45,500千円 / 売上原価: 29,800千円 / 販売費: 6,100千円 / 旅費交通費: 910千円 / 外注費: 2,200千円
このように、AIには「仮説の列挙」を任せ、証憑の確認と最終判断は人が行う形が現実的です。AIが出した仮説を検証して経営層に説明する役割こそ、年収に直結する仕事になります。
ほかにも、取引先からのメールに書かれた支払条件の整理、社内向けの経費精算ルールの文案作成、監査法人からの質問に対する回答のたたき台など、文章を扱う業務はAIで下書きを作れます。ただし、会計数値や個人情報を外部のAIサービスに入力する際は、会社の情報管理規程に沿って、入力してよい範囲を確認してから使うことが前提です。
年収アップの優先順位
- まず今の会社で決算業務に手を伸ばす(費用ゼロ)
- 並行して簿記2級を取り、応募範囲を広げる
- 決算経験がついたら、企業規模の大きい会社へ転職を検討する
- AIで処理を減らし、分析・説明の実績を作る
シゴトのホント編集部
「経理は給料が安い」という話は、平均値を見る限り正しくありません。差がつくのは年齢ではなく、決算を締められるか、どの規模の会社にいるか、判断の要る業務を持っているかの3点です。年収に不満があるなら、転職の前に「今の担当業務を一段広げられないか」を確かめるのが、最も確実で費用のかからない一手です。
まとめ
経理の年収は平均約509万円(令和6年・厚労省job tag)で、全産業の平均と同じか、やや上の水準です。20代は平均を下回り、30代後半で平均を超え、50代前半で約580万円のピークを迎えます。企業規模の影響が大きく、大企業と小企業の賃金差は月6万5,000円以上(令和6年・厚労省)あります。
資格は年収を直接上げるものではなく、簿記2級は「応募できる求人を広げる」資格、USCPA・公認会計士は「年収帯を変える」資格です。年収を上げる手順は、担当業務を決算まで広げる、簿記2級で応募範囲を広げる、規模の大きい会社へ移る、専門領域を持つ、AIで処理を減らして判断業務に時間を回す、の順が現実的です。
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参照ソース
- 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省) — 一般労働者の賃金(月額33万400円)、企業規模別・年齢階級別の賃金の根拠
- 経理事務 - 職業詳細(厚生労働省 職業情報提供サイト job tag) — 経理事務の平均年収(約509万円)と年齢別・性別の年収の根拠
- 日商簿記検定試験(2級・3級)ネット試験 受験者データ(日本商工会議所) — 簿記2級・3級の合格率の根拠
- 令和7年公認会計士試験の合格発表について(公認会計士・監査審査会) — 公認会計士試験の合格者数・合格率の根拠


