「経理はAIでなくなる仕事」という記事を読んで、このまま経理を続けてよいのか、いま転職するなら別の職種を選ぶべきなのか、迷っていませんか。一方で、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応で、現場の仕事はむしろ増えているように見えます。
この記事では、経理の将来性を求人統計で確かめたうえで、AI・RPA・電子帳簿保存法・インボイス制度で変わる業務、なくなる作業と残る判断業務、そして将来性のある経理になるための生き残り方を、実際に使えるプロンプト付きで解説します。
経理のキャリア全般の悩みは経理のキャリア完全ガイドにまとめています。
経理の将来性を統計で確かめる|求人は減っているのか
結論から言うと、経理の求人が消えつつあるという事実は統計上確認できません。厚生労働省の一般職業紹介状況では、令和7年度の有効求人倍率は全職業平均で1.20倍(厚労省)と、求職者より求人が多い状態が続いています。事務系の職種は営業や介護と比べて倍率が低い傾向にありますが、これは今に始まったことではなく、事務職の人気が高く応募者が多いことの裏返しでもあります。
賃金の面でも、経理の水準が下がり続けているという傾向は見られません。厚労省の職業情報提供サイト(job tag)によると、経理事務の平均年収は約509万円(令和6年賃金構造基本統計調査ベース)で、一般労働者の平均賃金(月額33万400円・令和6年・厚労省)と比べて同水準かやや上に位置します。
「なくなる」と言われる根拠は何か
経理がなくなると言われる根拠は、主に2つです。1つは、仕訳入力や伝票起票のような定型作業が会計ソフトの自動仕訳やAI-OCRで置き換えられていること。もう1つは、海外の研究で「会計事務」が自動化の影響を受けやすい職種に分類されてきたことです。
どちらも「作業」の話であって「職種」の話ではありません。自動化されるのは経理の中の処理業務であり、判断業務は残るというのが、現場の実態に近い見方です。この記事では、その境界線をできるだけ具体的に引いていきます。
事務職の求人倍率が低い理由と経理の位置
事務系の職種は、営業や介護、建設技術者と比べて有効求人倍率が低い傾向にあります。これは求人が少ないからというより、事務職を希望する求職者が多く、1つの求人に応募が集まりやすいためです。経理はその事務職の中で、簿記の知識や決算の経験という応募条件が付く分、一般事務より応募者が絞られます。「未経験歓迎」の一般事務と「簿記2級・決算経験者」の経理では、競争の構図が違います。
将来性を判断するときに見るべきなのは、倍率の高低そのものより、求人票の中身の変化です。ここ数年の経理求人では「会計ソフトの導入・運用経験」「電子帳簿保存法・インボイス対応の経験」「月次決算の早期化」といった文言が増えており、求められているのが処理の速さから業務の設計と判断へ移っていることが読み取れます。
経理の将来性を考えるときの前提
- 求人倍率は全職業で1.20倍(令和7年度・厚労省)。経理を含む事務職の求人が消えている事実は統計上ない
- 経理事務の平均年収は約509万円(令和6年・厚労省job tag)で、平均的な会社員と同じ帯
- 変わるのは「経理という職種があるか」ではなく「経理の中でどの作業を人がやるか」
経理の業務を変える4つの制度・技術|AI・RPA・電子帳簿保存法・インボイス
経理の仕事をここ数年で最も変えたのは、AIそのものより制度改正です。制度が「紙からデータへ」の前提を作り、その上でAIやRPAが効くようになった、という順番で理解すると見通しが良くなります。
| 変化の要因 | いつから | 経理に起きたこと |
|---|---|---|
| 電子帳簿保存法(電子取引データの保存義務化) | 令和6年1月〜(国税庁) | メールやWebで受け取った請求書・領収書は電子データのまま保存が原則に。紙に印刷して保存する運用が使えなくなった |
| インボイス制度(適格請求書等保存方式) | 令和5年10月1日〜(国税庁) | 仕入税額控除に適格請求書の保存が必要に。登録番号・税率ごとの記載の確認が請求書処理に加わった |
| デジタルインボイス(Peppol / JP PINT) | 2021年9月にデジタル庁が日本の管理局に | 請求情報を売り手のシステムから買い手のシステムへ人を介さず連携する仕組み。標準仕様JP PINTをデジタル庁が公表 |
| AI・RPA・自動仕訳 | 会計ソフトの標準機能として普及 | 銀行明細やカード明細の自動取り込み、AI-OCRによる請求書のデータ化、学習に基づく仕訳の提案 |
電子帳簿保存法が変えたもの
令和6年1月から、電子取引で受け取った請求書や領収書のデータは、電子データのまま保存することが義務になりました(国税庁)。それまでは紙に印刷して保存する運用も認められていましたが、原則として使えなくなっています。経理の現場では、保存の要件(改ざん防止の措置や検索できる形での保存)を満たすための業務フローの整備と、システムの選定が仕事に加わりました。
インボイス制度が変えたもの
令和5年10月1日に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、消費税の仕入税額控除を受けるために、一定の要件を満たした適格請求書の保存が必要になりました(国税庁)。経理は受け取った請求書について登録番号の有無や税率ごとの記載を確認し、免税事業者からの仕入れをどう処理するかを判断する必要があります。処理の件数が増えただけでなく、判断の場面が増えたのがこの制度の特徴です。
デジタルインボイスとAIが向かう先
デジタルインボイスは、請求情報を売り手のシステムから買い手のシステムへ、人を介さずデータのまま連携する仕組みです。デジタル庁が2021年9月に日本の管理局(Japan Peppol Authority)となり、標準仕様のJP PINTを策定・公表しています。これが普及すると、請求書を受け取って読み取り、仕訳を起こすという一連の作業がデータ連携で自動化されます。AI-OCRで紙やPDFを読み取る段階の次に、そもそも読み取りが要らなくなる段階が来る、ということです。
つまり、制度は「データ化を義務にする」方向で進み、技術は「データになったものを自動処理する」方向で進んでいます。処理業務が減っていく流れは、一時的なものではありません。
なくなる作業と残る判断業務
経理の中で自動化される作業と人に残る業務の境界は、「正解が一つに決まるか」で引けます。正解が決まる処理はソフトやAIが担い、正解を決めるために判断が要る業務は人に残ります。
自動化が進む処理業務
- 仕訳の入力・起票: 銀行明細やカード明細の自動取り込みと、学習に基づく仕訳提案
- 請求書・領収書のデータ化: AI-OCRによる読み取り。デジタルインボイスが普及すれば読み取り自体が不要に
- 支払データの作成・消込: 振込データの生成と入金の自動照合
- 定型帳票の出力: 試算表・残高一覧・月次の推移表
これらは「速く正確にやる」ことが価値だった作業で、人がやるよりソフトの方が速く正確です。この領域に自分の価値を置いている経理は、評価が下がりやすくなります。
人に残る判断業務
- 数字の妥当性の判断: 自動仕訳の提案が正しいか、勘定科目や税区分が実態に合っているか
- 異常の検知: 前月比で不自然な増減がないか、二重計上や漏れがないか
- 決算方針・税務の判断: 引当金の計上、減価償却の方法、インボイスの経過措置の適用
- 説明と調整: 経営層への報告、監査法人・税理士への回答、他部署との調整
- 業務の設計: 電子帳簿保存法に合わせた保存フローやシステム選定
RPAが向く作業・向かない作業
RPA(ロボットによる業務自動化)は、人がパソコンで行う操作を記録して繰り返すツールです。会計ソフトからの帳票出力、銀行サイトからの明細ダウンロード、Excelへの転記といった「毎回同じ手順で、判断が要らない」作業に向いています。逆に、請求書の記載内容が取引先ごとに違う、例外処理が多い、といった作業はRPAでは止まりやすく、AI-OCRや人の判断と組み合わせる必要があります。
現場で起きているのは、RPAで定型操作を減らし、AI-OCRで読み取りを減らし、それでも残る例外を人が判断する、という分業です。この分業の設計そのものが、経理の新しい仕事になっています。
自動化が進むほど、判断業務の比重は上がります。AIが提案した仕訳を鵜呑みにするわけにはいかないので、その妥当性を判断できる人の価値はむしろ高まります。ここに「経理の将来性」の実体があります。
「処理だけの経理」に留まると起きること
- 自動仕訳・AI-OCRの導入で担当業務そのものが減り、社内での役割が縮小する
- 転職市場で「経理補助」として扱われ、応募できる求人の年収帯が上がらない
- 制度改正(電子帳簿保存法・インボイス)のたびに対応に追われ、判断を任される側に回れない
将来性のある経理になるための生き残り方
将来性のある経理になる道は、処理を減らして判断を増やす方向に自分の仕事を寄せることです。具体的には次の4段階で進めます。
1. 決算を自分で締められるようになる
すべての土台は、月次決算・年次決算を自分で締められることです。仕訳を知っているだけでは判断はできません。決算を通して「この数字がなぜこうなるか」を追えるようになると、自動仕訳の誤りに気づく力がつきます。簿記2級の知識は最低限の共通言語で、日本商工会議所のネット試験では2級の合格率は34.6%(2025年4〜12月)です。
2. 自動化ツールを業務に組み込む側に回る
会計ソフトの自動仕訳やAI-OCRを「使わされる」のではなく「設定して業務に組み込む」側に回ります。取り込みルールの設計、仕訳パターンの登録、例外処理の決め方は、業務を理解している経理にしかできません。電子帳簿保存法への対応で保存フローを整備した経験は、転職市場で具体的な実績として伝えられます。
3. AIの出力を検証して使う
生成AIは、増減分析のたたき台、監査法人への回答文の下書き、社内規程の文案など、文章と仮説を扱う業務で使えます。重要なのは、AIの出力をそのまま使わず、証憑と突き合わせて検証したうえで使うことです。この「検証して使う」経験そのものが、AI時代の経理の実務能力になります。
4. 数字の意味を経営層に説明する
最終的に残るのは「数字を説明できる人」です。売上が伸びたのに利益が減った理由、資金繰りが来月どうなるか、税制改正で何が変わるか。これを経営層に分かる言葉で説明できる経理は、どの規模の会社でも必要とされ続けます。
転職先を選ぶときに求人票で見るポイント
将来性のある経理として働くには、勤め先の選び方も重要です。処理業務しか任せない会社に入ると、どれだけ意欲があっても判断業務に移れません。求人票では次の点を確認します。
- 会計ソフト・システムの記載: クラウド会計や経費精算システムの名前が書かれているか。紙とExcel中心の会社は、処理業務の比重が高い
- 担当業務の範囲: 「仕訳入力・伝票処理」だけか、「月次決算・年次決算・税務申告補助」まで含まれるか
- 経理の人数と体制: 少人数なら決算まで幅広く担える一方、業務設計を自分で進める必要がある
- 制度対応の状況: 電子帳簿保存法やインボイス制度への対応が済んでいるか。未対応なら、その整備を任される可能性がある
「未対応の会社は避けるべき」とは限りません。制度対応や自動化の導入を自分で進めた経験は、次の転職で最も具体的に語れる実績になります。
経理の年収がどこで決まるかは経理の年収で、未経験から目指す場合の入り口は次の記事で整理しています。
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未経験から経理に転職するには|簿記・年齢・求人の現実とロードマップ
経理でAIを使いこなす実践プロンプト
AIを経理業務に組み込む第一歩は、「判断はしないが、判断の材料を揃える」役割をAIに任せることです。ここでは実際に使える2つのプロンプトを挙げます。いずれも会社の情報管理規程の範囲内で、金額や取引先名を伏せるなどの配慮をしたうえで使ってください。
プロンプト1: 自動仕訳の提案を検証するチェックリストを作る
あなたは事業会社の経理担当です。会計ソフトが自動で提案した以下の仕訳について、
「勘定科目は実態に合っているか」「消費税の税区分は適切か」「インボイスの要件を満たす
請求書があるか」の3つの観点で、確認すべき点を箇条書きにしてください。
正しいかどうかの断定はせず、確認項目だけを挙げてください。
【自動提案された仕訳】
借方: 消耗品費 38,500円 / 貸方: 未払金 38,500円
摘要: ○○社 モニター購入
税区分: 課税仕入 10%
このプロンプトの狙いは、AIに「答え」を出させることではなく、確認漏れを防ぐ視点を揃えさせることです。例えば、備品として資産計上すべき金額かどうか、適格請求書発行事業者の登録番号があるか、といった論点が並べば、それを人が証憑で確認します。
プロンプト2: 電子帳簿保存法の運用フローの下書きを作る
あなたは中小企業の経理責任者です。電子帳簿保存法の電子取引データ保存の要件に沿って、
社内向けの運用ルールの下書きを作ってください。
含める項目: 対象となる取引データの種類、保存する場所と命名ルール、
改ざん防止のための措置、検索できるようにするための項目、担当者と確認の頻度。
専門用語には簡単な説明を添え、最終的な要件の確認は国税庁の資料で行うよう注記してください。
出力された下書きは、国税庁の一問一答や特設サイトの資料と突き合わせて修正します。AIが作るのはあくまで骨組みで、要件の確認と社内での合意形成は人の仕事です。
プロンプトを業務に組み込むときの考え方
プロンプトは一度作って終わりではなく、自社の勘定科目や運用ルールに合わせて育てていくものです。例えば、プロンプト1の「確認すべき点」に自社で過去に起きた誤りのパターンを追加していけば、社内のチェックリストとして機能します。プロンプト2の出力を社内で承認した運用ルールに更新し、翌年の制度改正のときに再度AIに差分を整理させる、という使い方もできます。
こうした積み重ねは「AIを業務に組み込んだ経験」として、面接で具体的に語れる材料になります。どのツールを使ったかより、何を任せて何を人が判断したかを説明できることが、AI時代の経理の評価につながります。
AIを経理で使うときの原則
- AIには「材料の整理」と「下書き」を任せ、判断と確認は人が行う
- 会計数値・個人情報・取引先名を外部サービスに入力する範囲は、会社の情報管理規程で確認する
- 出力を検証して修正した経験を、面接で「AIをどう業務に使ったか」として語れるようにしておく
シゴトのホント編集部
「経理はなくなる」という話は、経理の中の処理業務の話としては正しく、職種の話としては統計に裏付けがありません。制度改正でデータ化が進み、処理はソフトに移ります。だからこそ、数字の妥当性を判断し、経営層に説明できる経理の価値は上がります。転職を考えるなら「処理から判断へ」自分の仕事を寄せられる会社かどうかを、求人票で確かめてください。
まとめ
経理の将来性は、統計上「求人が消えている」事実がなく、有効求人倍率は全職業で1.20倍(令和7年度・厚労省)、経理事務の平均年収は約509万円(令和6年・厚労省job tag)です。変わるのは職種の有無ではなく、経理の中でどの作業を人がやるかです。
電子帳簿保存法(令和6年1月〜電子取引データの保存義務化)とインボイス制度(令和5年10月〜)がデータ化の前提を整え、デジタルインボイスやAI・RPAが処理業務を自動化していきます。仕訳入力・請求書のデータ化・消込は自動化が進み、数字の妥当性の判断、異常の検知、決算・税務の方針決定、経営層への説明は人に残ります。
将来性のある経理になるには、決算を自分で締める、自動化ツールを組み込む側に回る、AIの出力を検証して使う、数字の意味を説明する、の4段階で仕事を「処理から判断へ」寄せていくことです。
参照ソース
- 一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)について(厚生労働省) — 令和7年度の有効求人倍率1.20倍の根拠
- 経理事務 - 職業詳細(厚生労働省 職業情報提供サイト job tag) — 経理事務の平均年収(約509万円)と仕事内容の根拠
- 電子帳簿等保存制度特設サイト(国税庁) — 令和6年1月からの電子取引データ保存の要件の根拠
- インボイス制度について(国税庁) — 令和5年10月1日開始の適格請求書等保存方式の根拠


