「派遣で経理を3年やってきたのに、正社員求人に応募すると経験が足りないと言われる」「派遣先に登用を匂わされたまま、契約更新だけが続いている」。派遣で経理を続けている人の悩みは、経験があるのに正社員への道筋が見えないことに集中します。
この記事では、経理の派遣から正社員になる3つのルートの違いと通りやすさ、派遣と正社員の年収差、登用されやすい人の条件、簿記の効き方、志望動機の書き方を、厚労省の統計をもとに整理します。
経理全般の悩みは経理完全ガイドにまとめています。
経理の派遣から正社員になる3つのルート
経理の派遣から正社員になる道は、紹介予定派遣・正社員求人への直接応募・派遣先での登用の3つです。3つは「確度」と「自分で動かせる範囲」が違い、派遣先の登用は本人の意思で動かせない要素が大きく、直接応募は自分で動かせる代わりに競争にさらされます。紹介予定派遣はその中間に位置します。
正社員を望む派遣労働者は少数派ではありません。厚労省の令和4年派遣労働者実態調査(2022年)では、今後の働き方について「派遣労働者として働きたい」が34.2%、「派遣労働者以外の就業形態で働きたい」が37.0%でした。同じ調査で、派遣労働者を正社員として採用する制度がある事業所は14.3%にとどまります。正社員を望む人は3人に1人以上いる一方、受け皿となる登用制度を持つ派遣先は7社に1社しかない。この非対称が、派遣経理の「道筋が見えない」の正体です。
紹介予定派遣:確度は高いが求人は少ない
紹介予定派遣は、最長6か月の派遣期間の後に本人と派遣先の双方が合意すれば直接雇用に切り替わる仕組みです。厚労省の令和5年度労働者派遣事業報告書(2023年度)では、紹介予定派遣の申込人数107,597人に対し、実際に派遣されたのは26,012人、職業紹介を実施したのは18,783人、直接雇用に結びついたのは13,619人でした。派遣された人のうち約52%、職業紹介まで進んだ人では約73%が直接雇用に至っています。
ただし2点、読み替えが必要です。第一に「直接雇用」は正社員に限らず、契約社員として雇用されるケースを含みます。第二に、紹介予定派遣を扱っている派遣事業所は届出事業所41,793所のうち2,322所(約5.6%)で、求人の母数は通常の派遣より小さいです。確度は高いが枠が少ない、という前提で動く必要があります。
直接応募:自分で動かせるが、経験の伝え方で差がつく
正社員求人へ経理経験者として応募するルートです。派遣先の登用と違って求人を自分で選べ、応募のタイミングも自分で決められます。一方で、書類選考では「派遣で担当した範囲」が正社員の求める範囲と一致しているかを見られます。伝票起票と入金消込だけを3年続けた人と、月次決算の一部まで担った人では、同じ「経理3年」でも評価が分かれます。
派遣で担当した業務を「仕訳・月次・年次・税務・管理会計」の階層で書き出し、どこまで到達しているかを職務経歴書で示すことが、このルートの前提になります。
派遣先での登用:待つだけでは動かない
派遣先が「そろそろ正社員にならないか」と声をかけてくるルートです。実現すれば職場も業務も変わらないので負担は最小ですが、上で見たとおり制度を持つ事業所は14.3%です。声がかかるのを待つ前に、派遣元の営業担当を通じて「派遣先に正社員登用の制度があるか」「過去に登用の実績があるか」を確認してください。制度が無い派遣先で待ち続けるのは、時間を失うだけです。
派遣先の同じ組織単位で働ける期間は原則3年(個人単位の期間制限)です。この期限が近づくと、派遣先は「直接雇用に切り替える」「別の部署に移す」「契約を終える」のいずれかを判断します。期限の1年前が、登用の打診をする現実的なタイミングです。
| ルート | 確度 | 自分で動かせる範囲 | 向く人 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 紹介予定派遣 | 高い(派遣者の約52%が直接雇用) | 中 | 未経験領域を含めて試したい人 | 求人が少ない。直接雇用=正社員とは限らない |
| 直接応募 | 求人と経験の一致次第 | 大きい | 月次決算まで担当した人 | 経験の言語化が甘いと書類で落ちる |
| 派遣先での登用 | 制度の有無で決まる | 小さい | 今の職場に残りたい人 | 制度がある事業所は14.3%(2022年・厚労省) |
3ルートは並行できる
3つのルートは排他ではありません。派遣先に登用制度があるなら期限の1年前に意思を伝えつつ、並行して紹介予定派遣の求人を派遣元に探してもらい、月次決算まで担当した実績があれば直接応募も進める。この組み方が、時間を最も無駄にしません。派遣元の営業担当には「正社員になりたい」と早めに伝えてください。派遣元は派遣先との契約を続けたい立場なので、こちらから言わない限り紹介予定派遣や登用の話は出てきにくいからです。
順番の目安は、まず派遣先の制度確認(1週間で済む)、次に紹介予定派遣の求人確認(派遣元に依頼)、最後に直接応募(職務経歴書の整備に2〜3週間)です。制度が無いと分かった時点で、残り2つに集中します。
派遣と正社員の年収差を統計で確かめる
正社員と正社員以外の賃金差は、月額で11万円強、比率で約1.5倍です。厚労省の令和6年賃金構造基本統計調査(2024年)によれば、一般労働者の所定内給与は正社員・正職員が月34万8,600円、正社員・正職員以外が月23万3,100円でした。この数字は経理職に限った値ではなく全職種の平均ですが、賞与を含めると差はさらに広がります。派遣経理の時給は地域や担当範囲で幅があり、月額換算では正社員以外の平均に近い水準に収まる例が多いです。
年収差だけでなく、負荷の質も違います。厚労省の令和6年労働安全衛生調査(2024年)では、強いストレスの内容として正社員は「仕事の量」が45.0%と最も多かったのに対し、派遣労働者は「雇用の安定性」が54.7%で最多でした。派遣で経理を続けることのコストは、年収差だけでなく「更新のたびに続く不安」として出るということです。正社員になると仕事の量の負荷が増える代わりに、この不安が消えます。どちらを取るかは個人の事情によりますが、同じ経理業務で不安を抱え続けるなら、正社員化を急ぐ理由になります。
| 項目 | 正社員・正職員 | 正社員以外 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 所定内給与(月額・男女計) | 34万8,600円 | 23万3,100円 | 令和6年賃金構造基本統計調査 |
| 強いストレスの最多要因 | 仕事の量(45.0%) | 派遣労働者は雇用の安定性(54.7%) | 令和6年労働安全衛生調査 |
| 今後の働き方の希望 | — | 派遣以外で働きたい37.0% | 令和4年派遣労働者実態調査 |
同一労働同一賃金の制度が2020年から派遣にも適用され、派遣元の多くは労使協定方式で賃金を決めています。時給が上がる余地はありますが、賞与や退職金を正社員と同じ形で受け取る仕組みにはなっていません。年収を正社員並みにしたいなら、時給交渉ではなく雇用形態の変更が近道です。
派遣経理の年収が頭打ちになる構造
派遣経理の時給は、担当できる業務の広さで決まります。仕訳入力と経費精算の案件と、月次決算まで担う案件では時給に差がつきますが、上限は派遣元と派遣先の契約単価で決まるため、個人の成果で大きく上げることはできません。正社員の年収は年次の昇給と賞与、役職手当で階段状に上がるのに対し、派遣の年収は担当範囲を広げた時点で一段上がったあと横ばいになりやすい。30代以降でこの差が年収として見えてくる人が多く、「同じ仕事をしているのに」と感じるのはこの構造のためです。
経理派遣から正社員に登用されやすい人の条件
登用や採用で選ばれるのは、「担当した範囲」が正社員の仕事に届いている人と、「いなくなると困る」状態を作っている人です。派遣期間の長さや勤務態度の良さは前提であって、決め手にはなりません。派遣先が正社員化を決めるのは、欠員や増員のタイミングに、その人が正社員の職務を担える証拠がそろったときです。
月次決算を一人で締められる
仕訳入力と経費精算だけでは、正社員の職務に届きません。売掛・買掛の残高確認、月次の試算表作成、前月比の差異説明までを一人で回せると、派遣先は「正社員の枠で置き換えられる人」と見ます。派遣契約の業務範囲外だとしても、月次の締め作業に手を挙げて一部を担っておくことが、登用の交渉材料になります。
業務の引き継ぎ資料を残している
派遣先が登用を検討するとき、必ず出るのが「この人が辞めたらどうなるか」という問いです。逆説的ですが、引き継ぎ資料を整えて自分の業務を見える化している人ほど、「この人は業務を構造化できる」と評価されます。作業手順を残すことは、自分の代替可能性を高めるのではなく、正社員として業務を任せられる根拠になります。
繁忙期に前倒しで動いている
決算期や年末調整の時期に、指示を待たずに前倒しで準備している人は、正社員の働き方をすでにしている人として見られます。派遣契約の時間内で動くことが前提ですが、「何を先に済ませておけば締めが楽か」を自分で判断できるかは、登用面談でよく問われます。
年齢は決め手ではない
登用や採用に年齢の上限があるわけではありません。経理は業務の再現性が高く、30代・40代でも月次決算の実務がそろっていれば経験者として評価されます。ただし、年齢が上がるほど「担当範囲がどこまで届いているか」を厳しく見られます。20代なら仕訳中心でもポテンシャルで通る余地がありますが、30代半ば以降は月次決算までの実績がほぼ前提になります。年齢を気にする前に、担当範囲を広げることに時間を使ってください。
派遣先の登用制度と期限を把握している
制度の有無、過去の登用実績、個人単位の3年の期限。この3つを把握していない人は、登用の交渉を始めるタイミングを逃します。派遣元の営業担当に確認し、期限の1年前には「正社員として続けたい」意思を伝えておくことが、待つだけの人との差になります。
登用の打診をする前に確認したい3点
- 派遣先に正社員登用の制度があるか(制度がある事業所は14.3%・2022年・厚労省)
- 個人単位の期間制限(原則3年)まで、あと何か月か
- 自分の担当範囲が「月次決算まで」に届いているか
簿記などの資格はどこまで効くのか
簿記2級は、経理の正社員採用で「経験が薄い部分を補う証明」として効きます。派遣で仕訳入力を担当してきた人が正社員求人に応募すると、担当していない決算整理や税務の領域を「できるのか」と問われます。簿記2級は、その領域を体系的に理解していることを示す最も分かりやすい材料です。
難度は低くありません。日本商工会議所の統一試験の受験者データを見ると、2級の合格率は3級より大きく下がり、回によっては2割台にとどまります。ネット試験は随時受けられますが、2級は商業簿記に加えて工業簿記が範囲に入るため、派遣で経理をしていても独学で2〜3か月の準備が要る人が多いです。
| 資格 | 経理の正社員採用での効き方 | 向く人 |
|---|---|---|
| 日商簿記2級 | 応募条件に指定される例が多い。決算整理・工業簿記の理解の証明 | 仕訳中心の派遣から月次・年次へ広げたい人 |
| 日商簿記3級 | 未経験枠では効くが、経験者枠では前提扱い | 経理派遣に入る前の人 |
| 給与計算実務能力検定 | 給与・社会保険を兼務する中小企業の経理で効く | 総務経理を兼ねる職場を狙う人 |
| MOS(Excel) | 集計・関数の実務力の補足。決め手にはならない | Excelの経験を客観化したい人 |
資格より先に効くのは「派遣で何をどこまでやったか」です。簿記2級と月次決算の実務がそろうと、経験者枠の書類選考で落ちる理由がほぼ無くなります。逆に資格だけを積んで実務範囲が伝票入力のままだと、「勉強はしているが実務が伴わない」と見られます。資格は実務の穴を埋める順番で取るのが効率的です。資格の優先順位は経理の転職で効く資格で詳しく比べています。
取る順番は「実務の穴」から決める
派遣で仕訳中心の人は、まず簿記2級で決算整理と工業簿記を押さえます。月次決算まで担当している人は、簿記2級を持っていれば次は応募先の業種に合わせます。製造業なら原価計算、中小企業なら給与計算と社会保険、上場企業の子会社なら連結や開示の基礎です。すべてを取ろうとせず、応募先の求人票に書かれた業務と自分の実務の差を1つ埋める資格だけを選ぶのが、派遣で働きながらでも続けられる方法です。
志望動機の書き方とAIで整える手順
志望動機は「派遣で担った範囲」「正社員でしかできないこと」「応募先を選んだ理由」の3段で書きます。派遣から正社員を目指す人の志望動機で最も多い失敗は、「安定した雇用を望むから」で止めてしまうことです。それは応募者側の事情であって、採用側が知りたい「正社員として何を担うのか」への答えになっていません。
3段構成の書き方
1段目は派遣で担った範囲を具体的に書きます。「製造業の経理部で3年間、日次の仕訳入力と売掛金の入金消込、月次の試算表作成の補助を担当」のように、階層で示します。2段目は正社員でしかできないことを書きます。派遣契約では業務範囲が固定されるため、決算の主担当、業務改善の提案、後輩の指導などは正社員でなければ担えません。「月次決算を主担当として締めたい」「経費精算の承認フローを見直したい」のように、担当範囲を広げたい意思として書きます。3段目は応募先を選んだ理由です。派遣で経験した業種と重なるか、経理部の規模が自分の担当範囲と合うか、を具体的に結びつけます。
AIに下書きを整えてもらうプロンプト
派遣で担った業務を箇条書きで渡し、3段構成に整えさせるのが効率的です。事実を足さない指示を入れることで、経験の捏造を防ぎます。
あなたは経理職の採用担当者です。以下の情報をもとに、派遣から正社員への転職を目指す応募者の志望動機を400字で書いてください。
【派遣で担当した業務】
- 製造業の経理部で3年間
- 日次の仕訳入力、売掛金の入金消込
- 月次試算表の作成補助(残高確認まで)
- 年末調整の書類回収
【取得資格】日商簿記2級(2025年取得)
【応募先】従業員300人の食品メーカー、経理部6人、月次決算の主担当を募集
【条件】
1. 「派遣で担った範囲」→「正社員として担いたい範囲」→「応募先を選んだ理由」の3段で書く
2. 「安定したいから」のような応募者側の事情だけで終わらせない
3. 上に書いていない経験や実績を足さない
4. 誇張表現を使わない
面接で聞かれる3つの質問
派遣から正社員を目指す人の面接では、ほぼ決まって3つの質問が出ます。1つ目は「なぜ派遣を選んでいたのか」。ここは事実を短く答え、言い訳にしないことが要点です。「未経験で経理に入るために派遣を選んだ」「家庭の事情で時間の融通が必要だった」など、理由を1文で述べ、すぐに「今は正社員として担当範囲を広げたい」に接続します。2つ目は「派遣先から登用の話はなかったのか」。制度が無かったなら無かったと答えて構いません。制度が無い派遣先で待たずに動いたことは、判断力として評価されます。3つ目は「正社員になったら何が変わると思うか」。ここで「安定する」と答えると弱い。決算の主担当、改善提案、後輩の指導のように、正社員でしか担えない範囲を答えると、志望動機と一貫します。
出力された文章は、必ず自分の言葉に直してください。AIは「主体的に取り組み」「貢献したい」のような抽象語を入れやすいので、具体的な業務名に置き換えると通りやすくなります。経理の志望動機の型と例文は次の記事にまとめています。
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経理の志望動機の書き方|未経験・経験者別の例文と評価されるポイント
まとめ
経理の派遣から正社員になるには、紹介予定派遣・直接応募・派遣先での登用の3ルートを、確度と自分で動かせる範囲で使い分けることが要点です。派遣先の登用制度がある事業所は14.3%(2022年・厚労省)なので、登用を待つだけの戦略は成り立ちません。
派遣経理が正社員化で失いやすい時間の3パターン
- 登用制度の無い派遣先で、声がかかるのを待ち続ける
- 仕訳入力の範囲にとどまり、月次決算まで手を伸ばさない
- 志望動機を「安定したいから」で止め、正社員で担う範囲を書かない
正社員と正社員以外の月額給与差は約11万円(2024年・厚労省)で、派遣労働者のストレス要因は「雇用の安定性」が最多です。年収と不安の両方を解消できるのは雇用形態の変更しかありません。月次決算まで担当範囲を広げ、簿記2級で穴を埋め、期限の1年前に動く。この順番で進めれば、3ルートのどれを使っても通る確率が上がります。
シゴトのホント編集部
派遣先の登用を「待つ」と「動かす」は別物です。制度の有無を確認した日から、正社員化は始まります。 制度が無いと分かったら、その日のうちに紹介予定派遣と直接応募の両方を並行してください。
参照ソース
- 令和4年派遣労働者実態調査の概況(厚生労働省) — 今後の働き方の希望(派遣として働きたい34.2%・派遣以外37.0%)、正社員採用制度がある事業所14.3%の根拠
- 令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(厚生労働省) — 紹介予定派遣の申込・派遣・職業紹介・直接雇用の人数と、紹介予定派遣を扱う事業所数の根拠
- 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省) — 正社員・正職員と正社員・正職員以外の所定内給与の根拠
- 令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)(厚生労働省) — 正社員と派遣労働者のストレス要因の違いの根拠


