「電気主任技術者は足りないと聞くけれど、AIや遠隔監視で要らなくなるのでは」「電験三種を取っても、10年後に仕事があるのか」。勉強時間が長い資格だからこそ、取る前に将来性を確かめたいのは当然です。
この記事では、経済産業省が産業構造審議会に提出した電気保安人材に関する資料を根拠に、第三種電気主任技術者の高齢化と不足の見通し、再生可能エネルギーやデータセンターで広がる需要、外部委託承認制度の仕組み、AI・遠隔監視で変わる仕事と残る仕事、そして将来性を高めるキャリアパスを整理します。
電気主任技術者全般の悩みは電気主任技術者のキャリア完全ガイドにまとめています。
電気主任技術者の将来性は「不足を前提に制度が動いている」
結論から言うと、電気主任技術者は国が「人材が足りなくなる」ことを前提に制度を作り替えている数少ない資格です。経済産業省は2017年(平成29年)に電気保安人材の将来的な確保に向けた検討を始め、外部委託を担う第三種電気主任技術者が2030年に約2,000人不足するという試算を示しました(2017年・経済産業省)。その後、2045年には想定需要約1.8万人に対して約4,000人が不足するという長期見通しも公表されています(2018年・経済産業省)。
不足の見通しは「消えた」のではなく「先送りされた」
一方で、2026年2月の最新資料では見通しが修正されています。試験を年2回に増やしCBT方式を導入した結果、令和4年度以降の第三種電気主任技術者の取得者はそれまでの2倍以上に増え、制度見直しや業界の認知度向上、スマート保安の効果を織り込むと、2030年度(令和12年度)までに不足は生じないと見込まれるようになりました(2026年・経済産業省)。
ただし同じ資料は、今後の人口減少に加え、ペロブスカイト太陽電池などの自家用電気工作物が増える可能性を挙げ、需給ギャップが再び拡大する懸念があるとして、官民による人材確保の取り組みを続ける必要があるとしています。「2030年までは足りる見込み、その先は分からない」というのが現在の公式な見方です。
「将来性がない」と言われる理由の正体
それでも「電気主任技術者は将来性がない」という声が出るのには理由があります。1つは、遠隔監視やスマート保安(センサーとデータで保安業務を効率化する取り組み)で現地点検の頻度が減り、「人が要らなくなる」ように見えること。もう1つは、ビル管理の選任ポストでは年収が伸びにくく、資格の難しさに見合わないと感じる人がいることです。前者は作業の頻度が変わる話であって、法令上の選任義務や事故時の責任が消える話ではありません。後者は勤務先と働き方の選び方で変わる話で、外部委託や独立に進んだ資格者と常駐選任に留まる資格者とでは収入の伸び方が違います。将来性は「資格そのもの」ではなく「資格をどこで使うか」で決まる、というのがこの記事の前提です。
資格の需要が制度で守られている意味
電気主任技術者の需要が景気に左右されにくいのは、電気事業法が事業用電気工作物の設置者に主任技術者の選任を義務づけているからです。工場・ビル・病院・太陽光発電所は、設備がある限り誰かを選任するか、要件を満たす者に保安業務を委託しなければなりません。将来性を語るときに、この「法令で需要が固定されている」点が他の技術系資格との一番の違いです。
人材不足の統計で見る第三種電気主任技術者の高齢化
第三種電気主任技術者の不足は、資格者の数ではなく年齢構成の問題です。免状の交付数だけ見れば累計で多くの資格者がいますが、経済産業省の調査では免状取得者の約4割が60歳以上とされ、実際に保安業務に従事している人はさらに限られます(2018年・経済産業省)。
2030年・2045年の試算が示していたこと
経済産業省が2016〜2017年度に委託事業として行った実態調査では、次のような見通しが示されました。
- 外部委託を担う保安業界の第三種電気主任技術者は、2030年に約2,000人が不足する(2017年・経済産業省)
- 2045年には想定需要約1.8万人に対して約4,000人が不足する(2018年・経済産業省)
- 不足の主因は、業務ビルや再エネ設備の増加による需要増と、資格者の高齢化・入職者減による供給減の同時進行
最新資料での修正と残る懸念
この試算を受けて経済産業省は、実務経験年数の短縮(第三種で外部委託の保安業務に就くための経験年数を短くする)、試験の年2回化とCBT導入、業界のプロモーションなど、供給を増やす施策を続けてきました。2026年2月の資料では、これらの効果で2030年度までの不足は解消される見込みとされています(2026年・経済産業省)。
ただし、修正後も次の2点は変わっていません。1つは資格者の高齢化で、今いる資格者の多くが今後10〜20年で引退すること。もう1つは需要の増加で、太陽光発電設備の容量は10年間で約6倍に増え、全国の電気保安協会と電気管理技術者協会が受託する外部委託の件数は約1.4万件から約3.2万件に増えています(2026年・経済産業省)。供給を増やしても需要が同じ速度で増えれば、ギャップは再び開きます。「2030年まで安泰」ではなく「2030年以降も不足しないように制度が調整され続ける」と読むのが正確です。
統計から読み取れる第三種電気主任技術者の現在地
- 2017年の試算では2030年に約2,000人、2045年に約4,000人の不足見込み
- 試験制度の見直しで令和4年度以降の取得者は2倍以上に増え、2030年度までの不足は解消見込み
- 免状取得者の約4割が60歳以上で、引退による供給減は続く
- 太陽光発電の容量は10年で約6倍、外部委託件数は約1.4万件から約3.2万件へ増加
再エネ・データセンター・外部委託で広がる需要
需要が増えている場所は、再生可能エネルギー、データセンター、そして外部委託の3つです。従来の工場・ビルの選任に加えて、この3つが電気主任技術者の仕事の幅を広げています。
需要が増える3つの領域
| 領域 | 増える理由 | 求められる資格 | 働き方 |
|---|---|---|---|
| 太陽光・風力などの再エネ発電所 | 発電設備は事業用電気工作物として主任技術者の選任が必要。太陽光の容量は10年で約6倍(2026年・経済産業省) | 第三種(50kW以上2,000kW未満は外部委託可)、大規模は第二種 | 保安法人・電気管理技術者として複数の発電所を巡回 |
| データセンター | 高圧・特別高圧受電の大規模設備が増加し、24時間の電力の安定供給が求められる | 特別高圧受電では第二種以上、高圧受電なら第三種 | 常駐選任。設備更新と冗長化の管理 |
| 外部委託(保安法人・独立) | 小規模な自家用電気工作物の増加で外部委託件数が約1.4万件から約3.2万件へ(2026年・経済産業省) | 第三種+所定の実務経験 | 保安法人の社員、または電気管理技術者として独立 |
データセンターの需要が統計に出にくい理由
データセンターの需要は、経済産業省の電気保安人材の資料では「業務ビルの増加」の一部として扱われており、データセンター単独の統計はありません。ただし、データセンターは受電容量が大きく、特別高圧で受電する施設では第二種以上の電気主任技術者の選任が必要で、24時間の無停電運用を前提に予備電源や冗長化された受電設備の管理が求められます。設備の規模と運用の厳しさから、常駐選任のポストとして条件が良い求人が出やすい分野です。統計に表れにくいからといって需要が小さいわけではなく、求人票で「データセンター」「特別高圧」と検索すると実態がつかめます。
外部委託承認制度の仕組み
外部委託承認制度は、電気事業法施行規則第52条第2項に基づき、一定の要件を満たす自家用電気工作物(高圧で受電する需要設備や小規模な発電設備など)の設置者が、要件を満たす電気管理技術者や電気保安法人と保安管理業務の委託契約を結び、産業保安監督部長の承認を受けることで、電気主任技術者を選任しないことができる制度です(2026年・経済産業省)。
この制度が電気主任技術者の将来性にとって重要なのは、1人の資格者が複数の設備を担当できる働き方を制度として認めているからです。常駐選任では1人が1つの設備に縛られますが、外部委託では1人で数十件の設備を巡回し、収入も担当件数に応じて増やせます。免状を取得したあと所定の実務経験を積めば、保安法人への転職や独立という道が開けます。年収の実態と勤務先による違いは電気主任技術者の年収で扱っています。
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2025年度からの点検頻度の見直し
外部委託では、これまで電気設備の点検を原則として毎月1回現地で行う必要がありました。2025年度(令和7年度)からは、設備更新計画に沿って電気設備を更新し、漏電の発生や設備の過負荷を遠隔監視して事故が起こりにくい状態を維持できる場合に、現地点検の頻度を3か月に1回まで延ばせる見直しが行われています(2026年・経済産業省)。これは資格者1人が担当できる設備の数を増やす方向の変更で、需要が増える中で供給を効率化するための制度設計です。
AI・遠隔監視で変わる電気主任技術者の仕事と残る仕事
AIと遠隔監視は、電気主任技術者の仕事を「現地で測る」から「データを読んで判断する」へ変えますが、判断と責任の主体を人から外すものではありません。
変わる作業
- 月次点検の現地作業: 遠隔監視で常時把握できる設備では、現地点検が3か月に1回に減ります。
- 絶縁監視・漏電の検知: センサーが常時監視し、しきい値を超えた時点でアラートが飛びます。人が定期的に測りに行く必要が減ります。
- 点検記録と報告書: 測定値の記録と報告書の下書きは、監視システムと生成AIで大幅に短縮されます。
- 異常の傾向分析: 電流・電圧・温度のログから劣化の兆候を見つける作業は、AIのほうが広く早く行えます。
残る仕事
- 選任・受託の責任: 電気事業法上の主任技術者としての責任は、システムではなく資格者個人に帰属します。
- 年次点検と停電作業: 受電設備を停電させて行う年次点検、絶縁抵抗の測定、継電器の動作試験は現地で人が行います。
- 事故時の対応: 波及事故の防止、復電の判断、電力会社や設置者との連絡は、現場にいる資格者の仕事です。
- 設備更新の提案: 老朽化した受電設備の更新計画や、再エネ設備の増設に伴う保安上の助言は、設置者との対話が必要です。
生成AIを保安業務の補助に使うなら
遠隔監視のデータが増えるほど、「どの設備を優先して見に行くか」を決める作業が重くなります。この優先順位づけの下書きは生成AIに任せられます。次のプロンプトは、担当設備の月次データを貼り付ければそのまま使えます。
あなたは電気保安法人で高圧受電設備の保安管理を担当する第三種電気主任技術者です。
以下は、私が担当する高圧受電設備の直近3か月分の遠隔監視データの要約です
(設備名, 契約電力, 受電年, 最大需要電力, 漏電警報の回数, 絶縁監視装置の最大値, 前回現地点検日, 備考)。
[ここに設備ごとのデータを貼り付ける]
次の観点で整理してください。
1. 現地点検を優先すべき設備を上位5件、理由とともに挙げる
2. 各設備で現地確認すべき項目(絶縁抵抗、変圧器の温度、キュービクルの外観など)を列挙する
3. 設置者に設備更新を提案すべき設備があれば挙げ、根拠となるデータを示す
4. データだけでは判断できない点は「要現地確認」と明記し、断定しない
AIの出力は現地点検の計画を立てる材料であり、点検そのものや保安上の判断を代替するものではありません。停電や設備の操作をAIの提案だけで行わないことが前提です。それでも、この使い方ができる資格者は、担当件数が増える外部委託の現場で明確に評価されます。
電気主任技術者として将来性を高めるキャリアパス
キャリアの選択肢は、第三種で実務経験を積んで外部委託に進む道と、第二種を取って大規模設備に進む道の2つに大別されます。どちらを選ぶかで、10年後の働き方と収入の上限が変わります。
道1: 第三種+実務経験で外部委託・独立へ
第三種電気主任技術者の免状を取り、ビルや工場の選任や保安法人での補助業務で所定の実務経験を積むと、外部委託の保安業務を自分で受託できる要件を満たせます。経済産業省はこの実務経験年数を短縮する方向で制度を見直しており、以前より早い段階で受託側に回れるようになっています(2026年・経済産業省)。保安法人の社員として複数件を担当するか、電気管理技術者として独立するかは本人の選択で、独立すると担当件数に応じて収入が伸びる一方、事故時の責任と営業を自分で負います。
道2: 第二種で特別高圧・大規模設備へ
データセンターや大規模工場、大規模な再エネ発電所は特別高圧で受電するため、第二種以上の電気主任技術者が必要です。第二種は第三種より難易度が上がりますが、資格者が少ない分、常駐選任のポストで収入の上限が高くなります。第三種で実務を経験してから第二種に挑む人が多く、実務経験があれば認定による取得の道もあります。
共通して差がつく動き方
将来性を自分で狭めてしまう動き方
- 免状を取ったあと選任されない部署に留まり、実務経験の年数が積み上がらない
- 遠隔監視やスマート保安の技術を「自分の仕事を減らすもの」と捉えて距離を置く
- 高圧受電設備しか経験せず、太陽光発電設備の保安を扱ったことがないまま外部委託に進む
- 年次点検や停電作業を先輩任せにして、事故対応の経験がないまま独立を考える
逆に、若いうちに選任されて年次点検と事故対応を経験し、太陽光発電設備の保安を扱い、遠隔監視のデータを読める資格者は、保安法人でも独立でも引き合いが強くなります。第三種の取得ルートと免状交付後の流れは電気主任技術者になるにはで解説しています。
年代別に見た入り方
20代・30代前半で第三種を取った人は、選任ポストで年次点検と事故対応を経験し、30代のうちに外部委託の要件を満たすか第二種に挑戦する時間があります。30代後半〜40代で電気工事士や設備管理から転じる人は、前職で受電設備を触った経験がそのまま実務経験として評価されるため、免状取得と同時に選任ポストに就ける可能性が高い年代です。50代以上で取得した人は、資格者の高齢化が進む業界で即戦力として扱われやすく、保安法人での複数件担当や、定年後も続けられる電気管理技術者としての独立が現実的な選択肢になります。どの年代でも共通するのは、免状を取ってから選任されるまでの空白を作らないことです。
将来性を高めるキャリアの順番(第三種から始める場合)
- 1〜3年目: ビル・工場で選任または選任補助として実務経験を積み、年次点検と停電作業を経験する
- 3〜5年目: 外部委託の要件となる実務経験を満たし、保安法人で複数設備の保安業務を担当する
- 5年目以降: 第二種への挑戦、電気管理技術者としての独立、再エネ・データセンター分野への転職のいずれかを選ぶ
制度は数年単位で見直されるため、経済産業省の電力安全小委員会の資料は年に1回は確認しておくと、需給の見通しの変化を早く掴めます。資格の将来性を「取った時点の情報」で固定しないことが、この職種では特に重要です。
まとめ
電気主任技術者の将来性は、経済産業省の統計で見ると「不足を前提に制度が動いている資格」と言えます。2017年の試算では2030年に約2,000人、2045年に約4,000人の第三種電気主任技術者が不足する見込みでしたが、試験の年2回化とCBT導入で令和4年度以降の取得者は2倍以上に増え、2030年度までの不足は解消される見込みに修正されました(2026年・経済産業省)。ただし免状取得者の約4割が60歳以上という年齢構成と、太陽光発電の容量が10年で約6倍、外部委託件数が約1.4万件から約3.2万件に増えている需要の伸びは変わらず、2030年以降も人材確保の取り組みが続くとされています。
AIと遠隔監視で現地点検の頻度は減りますが、選任義務・年次点検・事故対応・設備更新の提案は資格者に残ります。将来性を自分のものにするには、第三種で実務経験を積んで外部委託に進むか、第二種で大規模設備に進むかを早めに決め、若いうちに年次点検と事故対応を経験しておくことが鍵になります。
シゴトのホント編集部
「不足は解消見込み」という最新の一文だけを見て将来性を疑う必要はありません。解消の理由は「取得者を増やした」ことであって「需要が減った」ことではないからです。実務経験を早く積み、遠隔監視の技術を味方につけるという2点を押さえれば、制度の変化はそのまま追い風になります。
参照ソース
- 電気保安人材の将来的な確保に向けた検討について(平成29年3月)|経済産業省 電力安全課 — 外部委託を担う第三種電気主任技術者が2030年に約2,000人不足するという試算、検討開始の経緯
- 電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について(平成30年3月)|経済産業省 電力安全課 — 2045年に想定需要約1.8万人に対し約4,000人不足という長期見通し、免状取得者の約4割が60歳以上という年齢構成
- 電気保安人材を巡る現状及び今後の課題について(令和8年2月)|経済産業省 電力安全課 — 令和4年度以降の第三種取得者の増加と2030年度までの不足解消見込み、太陽光発電容量が10年で約6倍、外部委託件数が約1.4万件から約3.2万件へ、需給ギャップ再拡大の懸念
- 主任技術者制度に関するQ&A(令和8年1月)|経済産業省 電力安全課 — 外部委託承認制度の根拠(電気事業法施行規則第52条第2項)と要件、遠隔監視を活用した点検頻度の見直し


