電気主任技術者になるにはどのようなルートがあるのか、電験三種の勉強を始める前に道筋を知っておきたいと感じている人は多いのではないでしょうか。本記事では、電験三種に合格して免状を取得するルートと、電気工事士としての実務経験を積みながらキャリアアップするルートの2パターンを整理し、免状取得後に必要な手続きまで解説する。
電気主任技術者としてのキャリア全般は電験三種のキャリアガイドにまとめています。
電気主任技術者になるには何が必要か|免状取得の基本ルート
電気主任技術者は、工場やビル、発電所などが保有する事業用電気工作物の保安を監督する立場にあり、選任されるためには経済産業省が所管する電気主任技術者免状を取得している必要がある。この免状を取得する方法は大きく分けて2つあり、一つは電験(第一種・第二種・第三種電気主任技術者試験)に合格する試験ルート、もう一つは経済産業大臣が認定する学校の電気工学系課程を卒業し、一定期間の実務経験を積んだうえで申請する認定ルートである。試験の実施は一般財団法人電気技術者試験センターが担っており、受験資格に年齢・学歴・実務経験の制限はなく、誰でも出願できる点が特徴だ。
このうち、社会人からのキャリアチェンジや電気工事士からのステップアップを考える場合には、試験ルートである電験三種の合格を目指すケースが中心になると考えられる。認定ルートは電気工学系の学校を卒業していることが前提になるため、すでに社会に出て別の職種や電気工事の実務に携わっている人にとっては選択肢に入りにくい場合が多い。本記事で紹介する2つのルートは、いずれも電験三種の合格を軸に据えたうえで、出発点や準備の仕方が異なるという位置づけになる。
認定ルートで求められる実務経験の年数は、卒業した課程の区分(大学・高等専門学校・高等学校など)によって異なり、卒業後に一定期間、指定された電気工作物の工事・維持・運用に関する実務に従事したことを証明する書類をそろえて申請する必要があるとされる。試験を受けずに免状を取得できる点は魅力に映るが、対象となる学校・学科は限られており、社会人になってから認定ルートを選び直すことは現実的に難しい場合が多い。そのため、すでに社会人として別の道を歩んでいる人にとっては、電験に合格して免状を取得する試験ルートが実質的な選択肢になりやすい。
受験案内は例年、電気技術者試験センターの公式サイトで公開され、出願期間や試験地、CBT方式の会場予約方法などが案内される。年度によって細部が変わることもあるため、出願前には必ず最新の受験案内を確認しておきたい。
電気主任技術者免状を取得する2つの入り口
- 試験ルート — 電験(第一種・第二種・第三種)に合格して取得する
- 認定ルート — 経済産業大臣認定校を卒業し実務経験を積んで申請する
免状の種類で保安監督できる範囲が変わる
電験三種の免状を取得すると、電圧5万ボルト未満の事業用電気工作物(出力5000キロワット以上の発電所を除く)の保安監督を担うことができるとされる。より大規模な設備を扱う事業場で主任技術者を目指す場合は、電験二種や電験一種へのステップアップも視野に入ってくるが、まずは電験三種の合格が電気主任技術者としてのキャリアの入り口になるケースが多い。電験二種の難易度を電験三種と比較した記事では、一次・二次試験の違いやキャリアの広がりについても触れている。
電験一種・二種・三種の違いを押さえておく
電験には第一種・第二種・第三種の3区分があり、いずれも保安監督できる事業用電気工作物の電圧・出力の範囲が異なる。電験三種は前述のとおり電圧5万ボルト未満の設備を対象とするのに対し、電験二種はより高い電圧の設備、電験一種はさらに上位の設備まで保安監督の対象が広がるとされる。区分が上がるほど試験科目に二次試験(論述・計算)が加わるなど、求められる知識の深さも増していく。
ルート1|電験三種に合格して電気主任技術者を目指す
電気系の実務経験がない状態からでも、電験三種は誰でも受験でき、合格すれば電気主任技術者免状を取得できる。学生や異業種からの転職希望者がこのルートを選ぶ場合、実務での設備イメージが乏しいぶん、理論・電力・機械・法規の4科目を学科としてじっくり積み上げていく学習スタイルになりやすい。特に理論科目は電気回路や電磁気学の基礎を扱い、他の3科目を理解するための土台になるため、早い段階から時間をかけて取り組む受験者が多いとされる。
このルートの強みは、実務の制約を受けずに学習時間を計画しやすい点にある。社会人であっても、業務内容が電気系設備と直接関わらない場合は、平日の夜間や休日にまとまった学習時間を確保しやすいという声も聞かれる。特に社会人受験者の場合、平日にまとまった学習時間を確保しにくいことも多く、通勤時間や昼休みを使った細切れ学習を積み重ねる人も少なくないとされる。一方で、電力科目が扱う発電・変電・送配電の仕組みや、機械科目が扱う電動機・パワーエレクトロニクスなどは、現場で実物を見た経験がないぶん、テキストの図解だけでイメージをつかむ必要がある。この点が、後述する電気工事士からのキャリアアップルートとの体感的な違いになりやすい。法規科目は電気事業法や電気設備技術基準など、実務に直結する法令の知識を問う内容であり、暗記に偏りがちな受験者もいるが、理論・電力・機械で学んだ内容と関連づけて理解することで定着しやすくなるとされる。
科目合格制度を使った計画の立て方
電験三種には科目合格制度があり、4科目のうち合格した科目については一定期間、再受験を免除できる仕組みが用意されている。この制度を使えば、1年間で4科目すべてをそろえる計画にこだわらず、複数年に分けて合格を積み上げていく進め方も選べる。令和5年度からはCBT方式が導入され受験機会が年2回に増えたこともあり、上期・下期で受験科目を分ける計画も立てやすくなっている。例えば初回の上期試験でまず理論と法規に絞って挑戦し、合格した科目を残しつつ下期試験で電力・機械に集中するといった科目の組み合わせ方も選べるようになる。どの科目から着手するかは、得意・不得意や仕事の繁忙期に合わせて調整できるため、無理のないペースで合格を積み上げていきたい受験者にとっては選択肢が広がったと言える。ただし制度の有効期間や適用条件は年度ごとに受験案内で確認する必要があり、計画の途中で条件が変わっていないかを都度チェックすることが欠かせない。過去問演習の進め方や合格に必要な勉強時間の目安については、別記事で詳しく取り上げている。
理論科目で必要になる数学的な土台
理論科目では、三角関数やベクトル、複素数、対数といった数学の基礎知識を使って電気回路や電磁気学の問題を解いていくことになる。高校数学から時間が空いている受験者にとっては、電気の内容そのものより先に、こうした数学の基礎を思い出すところから学習を始める必要がある場合も多い。理論科目でつまずくと電力・機械科目の計算問題にも影響が及びやすいため、遠回りに見えても数学の基礎を並行して復習しておくことが結果的に近道になるという考え方もある。
ルート2|電気工事士の実務経験から電気主任技術者になるには
第二種電気工事士や第一種電気工事士として現場で配線工事などの実務経験を積んだ人が、次のキャリアとして電験三種を検討するケースも珍しくない。電気工事士は施工そのものを担う資格であるのに対し、電気主任技術者は工場やビルなど事業用電気工作物の保安を監督する立場の資格であり、業務の性質が施工から保安管理・監督へと変わる点が大きな違いになる。電験三種の受験資格には電気工事士免状の保有や実務経験の年数といった条件はなく、あくまで学科試験に合格することが免状取得の要件になる。
それでも、電気工事士として配電盤や変圧器、電動機などの設備に日常的に触れてきた経験は、電力科目や機械科目で扱う内容をイメージしやすくする土台になり得ると考えられる。テキストの図解だけで理解するよりも、実際に見て触れた設備と結びつけて学習できる点は、このルートならではの強みだと言える。一方で、現場作業と学習時間の両立が課題になりやすく、体力を使う仕事のあとにまとまった学習時間を確保する工夫が必要になる。理論科目の計算問題に苦手意識を持つ人も一定数いるとされ、実務経験だけで学科試験を乗り切れるわけではない点は押さえておきたい。体力を使う現場作業を長く続けることへの不安や、将来的な働き方の幅を広げたいという思いから、電気主任技術者への挑戦を考える電気工事士は一定数いるとされる。資格を取得したからといって現場経験がすぐに不要になるわけではなく、むしろ現場を知っているからこそ気づける設備の異常や劣化の兆候もあると考えられる。
ルート1とルート2の主な違い
| 項目 | ルート1 電験三種合格ルート | ルート2 電気工事士キャリアアップルート | |—|—|—| | 出発点 | 電気系の実務経験がなくても挑戦できる | 電気工事士として現場経験を積んでから挑戦する | | 試験内容 | 理論・電力・機械・法規の4科目(学科のみ) | 同左。ただし実務で学んだ知識を活かしやすい | | 強み | 早い段階から学科対策に専念できる | 電力・機械科目の設備知識を実務経験と結びつけやすい | | 課題 | 実務での設備イメージが湧きにくいことがある | 現場作業と学習時間の両立が必要になる |
どちらのルートを選ぶべきか迷う場合は、学習時間を確保しやすいか、電力・機械科目で扱う設備をイメージできる経験があるか、現在の職種から無理なく学習を続けられるかという3つの軸で自分の状況を照らし合わせてみるとよい。
電気工事士としての経験が生きる場面
第二種電気工事士は一般住宅や小規模店舗などの低圧設備を対象とする一方、第一種電気工事士はビルや工場など、より規模の大きい設備の一部工事も扱えるようになる。いずれの資格でも、配線図の読み方や電気設備の構造に日常的に触れてきた経験は、電験三種の電力科目・機械科目で扱う変圧器や電動機、配電設備の仕組みを理解するうえでの土台になり得ると考えられる。特に、テキストだけでは掴みにくい設備同士のつながりや、現場での安全確認の考え方は、実務を経験した受験者ならではの強みとして学習に生きてくる場面がある。
現場経験を数年積んでから電験三種に挑戦する人もいれば、電気工事士の資格取得と並行して電験三種の学習を始める人もおり、挑戦するタイミングに決まった正解があるわけではない。自分の現場での業務量や繁忙期を踏まえて、学習時間を確保しやすい時期を見極めることが大切になる。
選任される立場への変化を意識する
電気主任技術者に選任されると、電気工作物の点検・保守計画の立案や、法令に基づく保安規程の運用など、施工そのものよりも設備全体の安全管理に関わる業務の比重が増えていく。測定データの記録や異常時の対応手順の整備など、設備の状態を継続的に把握し、記録として残していく業務が加わる。現場で手を動かす仕事から、設備の状態を俯瞰して管理する仕事へと役割の重心が移っていく点は、電気工事士からのキャリアアップを考えるうえで意識しておきたい変化だと言える。体力的な負担が大きい屋外作業や高所作業を続けるより、実務経験を活かしながら管理・監督寄りの働き方に移りたいと考える電気工事士にとって、電験三種は選択肢のひとつになり得る資格だと言える。電験三種の難易度を電気工事士と比較した記事では、試験構成の違いをより詳しく整理している。
免状取得後に電気主任技術者になるには選任の手続きが必要
電験三種に合格して免状を取得しても、その時点ではまだ電気主任技術者としての業務は始まらない。事業用電気工作物を設置する事業者が、その設備を保安管理する担当者として免状保有者を選任し、選任届を産業保安監督部などの関係機関へ提出することで、初めて電気主任技術者としての立場が成立する。あわせて、事業場ごとに保安規程を定めて届け出ることも法令上求められており、免状はあくまで「選任される資格を得た」ことを示すものだという理解が実態に近い。免状を取得した人が転職や独立によって新たに主任技術者として選任される場合も、選任後に所定の届出を行う必要がある点は変わらない。
免状の種類によって保安監督できる電気工作物の範囲が異なる点も、キャリアを考えるうえで押さえておきたいポイントだ。電験三種の免状では対応できない大規模な設備を扱う事業場で主任技術者を目指す場合は、電験二種や電験一種へのステップアップが必要になる。実際に、電験三種で電気主任技術者としてのキャリアをスタートし、経験を積みながら上位の資格取得を目指す人も一定数いるとされる。免状取得後すぐに大規模な設備の主任技術者になれるわけではなく、段階を踏んでキャリアを広げていく形になりやすい。
保安規程に定める内容の一例
保安規程には、電気工作物の巡視・点検・測定の頻度や方法、運転または操作の方法、災害その他非常の場合に採るべき措置など、事業場ごとの保安管理の具体的なルールを定めることが求められる。電気主任技術者は、この保安規程に基づいて日常の点検・保守計画を立案し、記録を残しながら設備の状態を管理していく立場になる。免状を取得した直後は、こうした保安規程の運用や記録の付け方に不慣れなことも多く、先任の主任技術者や事業者と連携しながら実務を覚えていく期間が必要になる場合もあると考えられる。
実務経験が問われる場面もある
主任技術者として事業場に常駐せず、外部の技術者が複数の事業場を巡回して保安管理を行う「外部委託」の形態を取る場合には、一定の実務経験年数が要件として求められる制度もあるとされる。免状さえ取得すればどのような働き方でも制限なく選任されるわけではなく、働き方によっては実務経験の積み上げが必要になる場面がある点は理解しておきたい。外部委託の形態では、電気管理技術者として複数の事業場を巡回するための体制や点検頻度の基準を満たしているかどうかも審査の対象になるとされ、免状取得後すぐに独立して外部委託を担うことは想定しにくい。詳細な年数要件や制度の運用は法令や経済産業省の資料で随時確認することが望ましい。
まとめ|電気主任技術者になるには自分に合ったルートを選ぶこと
電気主任技術者になるには、電験三種などの試験に合格して免状を取得することが基本の道筋になる。電気系の実務経験がない状態から学科対策に専念する電験三種合格ルートと、電気工事士として現場経験を積みながら電力・機械科目の理解を深めていくキャリアアップルートは、どちらも最終的には同じ試験の合格を目指す点で共通しているが、出発点や強み・課題が異なる。自分の現在の立場や学習時間の確保しやすさを踏まえて、どちらのルートが無理なく続けられるかを考えることが遠回りを防ぐ近道になると考えられる。
免状を取得したあとも、事業者からの選任や保安規程の届け出といった手続きを経て初めて電気主任技術者としての業務が始まる点、そして免状の種類によって保安監督できる範囲が異なる点も、キャリアの見通しを立てるうえで欠かせない情報だ。電験三種の合格をゴールとせず、その先の選任やステップアップまで見据えて準備を進めることをおすすめする。
参照ソース
- 一般財団法人電気技術者試験センター — 電験(電気主任技術者試験)および電気工事士試験の実施結果・受験案内の公式情報源
- 経済産業省 — 電気事業法に基づく電気主任技術者制度・保安規程・選任に関する行政機関の公式サイト
- 一般社団法人日本電気協会 — 電気主任技術者制度や電気設備の保安に関する業界団体の情報源


