「EV(電気自動車)が普及したら、自動車整備士の仕事は減ってしまうのではないか」「AI診断機が広がったら、自分の技術は必要とされなくなるのではないか」——将来性に不安を感じている方もいるのではないでしょうか。本記事では、EV化・ハイブリッド化が進むなかでの自動車整備士の将来性、従来のエンジン整備とEV整備で求められるスキルの違い、AI診断機が仕事に与える影響を解説します。
自動車整備士としてのキャリア全般は自動車整備士のキャリア完全ガイドにまとめています。
自動車整備士の将来性を考えるうえで押さえておきたいEV化の動き
自動車整備士の将来性を考えるとき、まず押さえておきたいのが、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)といった電動車の普及です。日本政府は脱炭素社会の実現に向けて、新車販売における電動車の比率を高めていく方針を掲げており、自動車メーカー各社もEV・HVのラインナップを拡充する動きを進めています。整備業界にとっても、こうした電動化の流れは無視できない変化だといえます。
新車販売における電動車の広がり
新車販売に占める電動車の割合は、ここ数年で着実に高まってきています。ハイブリッド車はすでに多くのメーカーの主力車種に採用されており、街中でも見かける機会が増えたのではないでしょうか。電気自動車についても、各メーカーが新型モデルの投入を続けており、充電インフラの整備が進むにつれて選択肢に入れる消費者が増えていくと考えられます。こうした流れのなかで、整備工場に持ち込まれる車両の構成も、徐々にエンジン車中心から電動車を含む形へと変わっていく可能性があります。
従来のエンジン車がすぐになくなるわけではない
一方で、既存のガソリン車やディーゼル車が短期間ですべて電動車に置き換わるわけではない点にも注意が必要です。すでに販売されているエンジン車は、今後も長期間にわたって使用され続けるため、従来のエンジン整備の知識や技術が不要になるわけではありません。整備業界全体としては、エンジン車の整備需要が緩やかに減少していく一方で、電動車の整備需要が徐々に増えていくという、二つの技術領域が並行して求められる期間がしばらく続くと考えられます。
整備業界全体で意識されている変化
こうした状況を踏まえ、自動車整備業界の団体や教育機関でも、電動車に対応できる整備士の育成を意識した取り組みが進められています。整備専門学校のカリキュラムに電動車関連の科目が組み込まれたり、現役の整備士向けにEV・HVの技術講習が実施されたりする動きも見られます。自動車整備士としてキャリアを築いていくうえでは、こうした業界全体の動きを把握しておくことが、将来性を見極めるための一つの手がかりになると考えられます。
EV化がもたらす変化を理解する3つの視点
- 新車販売に占める電動車の比率は、緩やかに高まっていく傾向にある
- 既存のエンジン車もしばらくは使用され続け、整備需要が急になくなるわけではない
- 教育機関・業界団体も電動車に対応した人材育成に動いている
もっとも、電動化のスピードや影響の度合いは、乗用車と商用車、あるいは地域によっても異なると考えられます。整備工場によって扱う車種の構成もさまざまであるため、自分が勤務する、あるいは将来勤務したいと考えている整備工場が、どの程度電動車に対応した設備や研修体制を整えているかを確認しておくことも、将来性を判断するうえで役立つ視点だといえます。
整備士の求人・需要の見通しをどう見るか
自動車整備士全体の需要という観点では、自動車の保有台数自体が大きく減少しない限り、点検・整備そのものの需要が急激になくなるとは考えにくい状況です。一方で、整備工場によっては人手不足が課題になっているところもあり、電動車に対応できる人材を含めて、整備士の確保は業界共通の関心事になっていると考えられます。求人情報を見る際には、給与や待遇だけでなく、電動車への対応状況や研修制度についても確認しておくと、将来を見据えた職場選びの参考になります。
従来のエンジン整備とEV整備で求められるスキルの違い
自動車整備士の将来性を語るうえで欠かせないのが、従来のエンジン整備とEV整備とでは、求められる知識や技能の性質が大きく異なるという点です。エンジン整備は機械的な構造の理解や組み付け精度が重視されてきたのに対し、EV整備では電気・電子系統の知識や、高電圧を安全に扱うための専門的な訓練が求められます。
エンジン整備で重視されてきた知識と技能
従来のエンジン整備では、エンジン内部の機械的な仕組みを理解し、部品を正確に分解・組み立てる技能が中心的な役割を果たしてきました。オイルやフィルターの交換といった基礎的な点検整備から、エンジンの分解整備、足回りの調整まで、機械的な構造への理解と手先の技能が重視されてきたといえます。ベテラン整備士の多くは、こうした機械整備の経験を長年積み重ねることで、専門性を高めてきました。
EV整備で新たに必要になる知識
EV整備では、エンジンに代わってモーターやバッテリー、インバーターといった電気系統の部品が中心的な役割を果たします。そのため整備士には、電気回路の基礎知識や、車両に搭載された高電圧バッテリーを安全に取り扱うための知識が求められます。従来のエンジン整備で培ってきた機械的な知識がまったく不要になるわけではありませんが、電気・電子分野の知識を新たに学び直す必要がある点は、大きな変化だといえるでしょう。
高電圧を扱う作業には専用の資格・講習が必要
電気自動車やハイブリッド車に搭載されている高電圧システムは、感電などの重大な事故につながる危険性があるため、取り扱いには専用の安全教育や講習の受講が求められます。整備工場によっては、高電圧回路を扱う作業を一部の有資格者に限定しているケースもあり、EV整備に携わるためには、通常の整備士資格に加えて、こうした追加の教育を受ける必要がある点を理解しておくことが大切です。
| 項目 | エンジン整備 | EV整備 |
|---|---|---|
| 中心となる部品 | エンジン・トランスミッションなど機械部品 | モーター・バッテリー・インバーターなど電気部品 |
| 求められる基礎知識 | 機械工学・燃焼の仕組み | 電気回路・電子制御の仕組み |
| 安全面の留意点 | 可燃物・高温部位の取り扱い | 高電圧による感電リスクへの対応 |
| 必要になる追加教育 | メーカー研修など | 高電圧取り扱いに関する専門講習 |
上記はあくまで一般的な傾向を整理したものであり、実際に求められる知識の範囲は、整備工場が扱う車種や業務内容によって異なります。エンジン整備とEV整備は対立する技術ではなく、今後は両方の知識を併せ持つ整備士が重宝される場面が増えていくと考えられます。
特殊整備士・上位資格との組み合わせで専門性を高める
EV整備への対応力を高める方法の一つとして、電気装置整備士などの特殊整備士資格や、1級整備士のような上位資格の取得を目指す道も考えられます。等級や資格の種類によって学べる内容や証明できる専門性が異なるため、自分がどの分野を強みにしていきたいかを踏まえて、資格取得の計画を立てていくとよいでしょう。資格の種類や取得方法については自動車整備士の資格は3級・2級・1級?種類と取得ルートを解説で詳しく解説しています。エンジン整備の経験を土台にしながら、電気・電子系統の資格を段階的に積み上げていく進め方は、無理なく専門性を広げる方法の一つだと考えられます。
AI診断機の普及が整備士の仕事に与える影響
近年の自動車には、車両の状態を電子的に読み取るOBD(車載式故障診断装置)が標準的に搭載されており、専用の診断機を接続することでエンジンや各種センサーの状態を素早く確認できるようになっています。AI技術を活用した診断機の登場によって、故障箇所の特定がこれまで以上に効率化される場面も増えてきており、自動車整備士の将来性を考えるうえで無視できない変化の一つです。
AI診断機・故障診断システムでできること
AIを活用した診断機は、車両のコンピューターに記録されたエラーコードやセンサーの数値を読み取り、想定される故障箇所の候補を提示してくれる機能を持っています。従来、経験と勘に頼っていた故障の切り分け作業の一部を、診断機が支援してくれるようになったことで、原因特定にかかる時間が短縮される場面があると考えられます。特に、複雑化する電子制御システムの不具合については、診断機によるデータの読み取りが有効な手がかりになります。
AI診断機が広がっても整備士の判断が必要な理由
AI診断機が提示するのは、あくまで想定される故障箇所の候補や、記録されたデータの分析結果です。実際に部品を取り外して状態を確認したり、複数の要因が絡み合った不具合の全体像を判断したりする作業は、整備士自身の知識と経験に頼る部分が大きく残ります。診断機が示した候補が必ずしも正しいとは限らないため、その結果を鵜呑みにせず、実車の状態と照らし合わせて最終的に判断する力が、これまで以上に重要になると考えられます。
AI診断機に対応できる整備士とできない整備士の差
診断機を使いこなせるかどうかは、これからの整備士の間で技術力の差として表れやすい部分だと考えられます。診断機が出力するデータを正しく読み解くには、電子制御の仕組みについてのある程度の知識が前提になります。逆に、診断機の操作や結果の解釈に不慣れなままでいると、せっかく便利なツールがあっても十分に活用できず、原因特定に時間がかかってしまう可能性があります。診断機を使いこなす力と、従来からの整備知識の両方を持つ整備士が、今後も現場で頼りにされる存在になっていくのではないでしょうか。
AI診断機への対応で後れを取りやすい3つの要因
- 電子制御の基礎知識が不足していると、診断結果を正しく解釈できない
- 診断機の操作や新しいソフトウェアの更新に慣れる機会が少ない
- 診断機の候補をそのまま鵜呑みにし、実車確認を省略してしまう
AI診断機の普及は、整備士の仕事を奪うものというよりも、作業の一部を効率化し、より高度な判断業務に時間を割けるようにする変化だと捉えることもできます。診断機を敬遠するのではなく、積極的に使いこなす姿勢を持つことが、これからの整備士に求められる将来性につながっていくと考えられます。
診断機の進化と整備工場の設備投資
AI診断機や故障診断システムは日々アップデートが重ねられており、対応できる車種やエラーコードの範囲も広がり続けています。整備工場にとっては、こうした診断機を導入し、定期的に更新していくための設備投資も必要になります。整備士個人の視点で見ても、勤務先がどの程度診断機やソフトウェアへの投資を行っているかは、日々の業務のしやすさや、将来身につけられる技術の幅に関わってくる要素だといえるでしょう。
自動車整備士の将来性を左右するそのほかの要因
EV化やAI診断機の普及だけでなく、自動車整備士の将来性には、業界全体の人材構成や自動車保有の動向といった要因も関わってきます。ここでは、EV化・AI化以外の視点から、整備士という仕事の将来性を考えてみます。
整備士の高齢化と若手人材の確保
自動車整備業界では、整備士の高齢化や若手人材の確保が課題として挙げられることがあります。技能を持つベテラン整備士が引退していく一方で、新たに整備士を目指す若年層の確保が追いついていないという指摘もあり、業界団体や専門学校では、整備士という仕事の魅力を伝える取り組みが行われています。若手にとっては、人材が不足している分野で早い段階から経験を積み、専門性を高めていける環境があるとも捉えられます。
自動車の保有台数と点検・整備需要の関係
自動車整備の仕事は、自動車の保有台数や車検・法定点検の制度と密接に結びついています。日本では車検制度によって定期的な点検整備が義務づけられているため、電動車が増えたとしても、点検整備そのものの需要が仕組みごとなくなるわけではありません。整備の対象となる車両の種類がエンジン車から電動車へと変化していくとしても、点検・整備という仕事自体の必要性は、当面のあいだ大きくは変わらないと考えられます。
整備士不足が現場に与える影響
人材確保が課題となっている整備工場では、一人あたりが担当する業務量が増えたり、繁忙期に対応しきれなかったりする状況が生じることもあると考えられます。裏を返せば、必要とされる技能をしっかり身につけた整備士にとっては、複数の職場から必要とされやすい状況にあるともいえます。EV・AI関連の知識まで備えた整備士であれば、こうした人材確保の課題のなかでも、特に価値を発揮しやすい存在になっていくのではないでしょうか。
地域や勤務先による違いも大きい
整備士の将来性や働きやすさは、全国一律ではなく、都市部と地方、ディーラーと民間整備工場など、勤務先の環境によっても違いがあります。都市部では電動車の普及が比較的早く進む傾向がある一方、地方では依然としてエンジン車の整備需要が中心であり続ける地域もあると考えられます。自分が働きたい地域や職場の特性を踏まえて、どの知識を優先的に身につけるべきかを考えることも、将来性を見据えたキャリア形成には欠かせない視点です。
自動車整備士の将来性を高めるために意識したい知識とスキル
ここまで見てきたEV化やAI診断機の普及を踏まえると、自動車整備士の将来性を高めていくためには、従来の整備技術に加えて、新しい知識やスキルを意識的に身につけていく姿勢が重要になってきます。ここでは、これから整備士としてのキャリアを築いていくうえで意識しておきたいポイントを整理します。
EV・電子制御に関する研修や資格を積極的に受ける
整備工場やディーラーのなかには、EV・HVに関する社内研修や、メーカーが実施する技術講習を用意しているところが増えてきています。こうした研修は、日々の業務のなかで電動車に触れる機会がまだ少ない整備士にとって、体系的に知識を補う貴重な機会になります。特殊整備士のうち電気装置整備士の資格や、高電圧取り扱いに関する講習の受講歴は、電動車に対応できる整備士であることを客観的に示す材料にもなると考えられます。
診断機やソフトウェアを使いこなすITリテラシー
今後の整備現場では、診断機だけでなく、車両のソフトウェアを更新する作業や、クラウド上のデータを参照しながら整備を進める場面が増えていくと考えられます。パソコンやタブレットの基本的な操作に慣れておくこと、新しいツールやソフトウェアの使い方を自分から学んでいく姿勢を持つことが、将来的な業務の幅を広げることにつながります。ITツールへの苦手意識をそのままにしておくと、変化についていくのが難しくなる可能性があります。
接客・説明力もこれからの整備士に求められる
電動車や電子制御システムは、一般のユーザーにとって仕組みが分かりにくい部分も多く、整備内容を分かりやすく説明できる力の重要性が増していくと考えられます。診断機が示したデータや故障の原因を、専門用語をかみ砕いてユーザーに伝えられる整備士は、修理内容への納得感を高め、信頼関係を築くうえでも強みになります。技術力だけでなく、こうした説明力・接客力も、これからの自動車整備士の将来性を左右する要素の一つだといえるでしょう。
自動車整備士の将来性を高めるために意識したい3点
- EV・HVに関する研修や特殊整備士資格を積極的に活用する
- 診断機やソフトウェアを使いこなすITリテラシーを高めておく
- 技術内容を分かりやすく説明する力も専門性の一部として磨く
転職・キャリアアップの選択肢を広く持つ
EV化やAI化への対応を進めている整備工場やディーラーに身を置くことも、将来性を高める選択肢の一つです。すでに電動車の整備実績が豊富な職場であれば、実際の業務を通じて知識や経験を積みやすいというメリットがあります。今の勤務先で電動車への対応が遅れていると感じる場合は、研修制度や設備投資に積極的な職場への転職を検討することも、キャリアを広げる一つの手段になると考えられます。
まとめ|自動車整備士の将来性はEV化・AI化への対応力で決まる
自動車整備士の将来性は、EV・ハイブリッド車の普及という大きな流れのなかで、従来のエンジン整備の知識と、電気・電子系統の新しい知識をどれだけ併せ持てるかによって左右されると考えられます。AI診断機の普及も、整備士の仕事を奪うものというよりは、診断作業を効率化し、より高度な判断力や説明力が求められる方向へと仕事の中身を変化させていく要因だといえるでしょう。
整備士の高齢化や若手人材の確保が課題になっている業界の状況を踏まえると、電動車や診断機に対応できる知識を身につけた整備士は、今後も現場で必要とされ続けると考えられます。まずは自分の勤務先や志望先が、電動車への対応や研修体制をどの程度整えているかを確認するところから、将来を見据えたキャリアづくりを始めてみてはいかがでしょうか。
シゴトのホント編集部
自動車整備士の将来性は、EV化やAI診断機の普及によって仕事がなくなるかどうかという単純な話ではなく、求められる知識の中身がどう変わっていくかという話だと捉えるとよいでしょう。従来のエンジン整備の経験を土台にしながら、電気・電子系統の知識を一つずつ積み上げていく姿勢が、これからの整備士としての強みになっていくはずです。
参照ソース
- 国土交通省 — 自動車整備士制度・自動車検査(車検)を所管する省庁のトップページ
- 経済産業省 — 自動車の電動化(xEV普及)に関する政策を所管する省庁のトップページ
- 一般社団法人日本自動車整備振興会連合会 — 自動車整備士技能検定の実施団体


