「運行管理の仕事はAI・IT化が進んでいると聞くが、具体的に何がどう変わるのか、実例をもとに知りたい」。そう感じている人へ。ドライバーのキャリア情報を参考にしながら、この記事では運行管理業務のAI・IT活用の実態を、公式資料と公開事例をもとに整理します。
運行管理業務でAI/IT機器が使われている領域(点呼・アルコールチェック・日報)
運行管理者の業務のうち、デジタル化が特に進んでいるのが、点呼・アルコールチェック・日報作成という3つの領域です。
点呼業務では、対面点呼を補完する「IT点呼」「遠隔点呼」と呼ばれる仕組みが普及しています。営業所間でのテレビ電話形式の点呼や、免許証リーダーによる有効期限の自動チェック、アルコール検査結果のリアルタイム共有といった機能を備えたクラウド型システムが、国内の複数のベンダーから提供されています。
日報作成の領域では、デジタルタコグラフ(デジタコ)と呼ばれる運行記録計が広く導入されています。車両に設置した速度センサー・回転センサーから得たデータを記録し、事務所のパソコンに取り込むことで、走行距離・速度・アイドリング時間などを自動的に集計し、安全運転評価・経済運転評価といったスコアを自動出力する仕組みです。従来は手書きやExcelで行っていた日報作成・分析業務が、こうしたシステムによって大幅に効率化されています。
こうしたシステムの多くが「AI」という言葉とともに紹介される背景には、蓄積された運行データをもとに、パターン認識や統計的な分析を行う仕組みが組み込まれている点があります。例えば、急加速・急減速の頻度や、速度超過の回数といった運転データから、ドライバーごとの安全運転スコアや経済運転スコアを自動算出する機能は、単純な集計処理を超えて、データの傾向を分析する仕組みが土台になっています。生成AIのような対話型の技術とは異なりますが、大量の運行データから有用な情報を引き出すという意味では、広い意味でのAI活用のひとつと位置づけられます。用語としての「AI」が指す範囲は広く、ニュースなどで見聞きする際は、どのような技術を指しているのかを見極める視点も大切になります。
これら3つの領域(点呼・アルコールチェック・日報)がデジタル化された背景には、法令面での後押しもあります。国土交通省は、対面点呼を原則としつつも、一定の要件を満たすことで、映像・音声を活用した「遠隔点呼」や、機器による「自動点呼」を認める制度を段階的に整備してきました。こうした制度整備が、各社のIT点呼サービスの開発・普及を後押しする要因のひとつになっています。点呼方式ごとの違いを整理すると、以下のようになります。
| 点呼方式 | 実施方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 対面点呼 | 運行管理者と対面で実施 | 従来からの基本形式 |
| IT点呼 | 営業所間のテレビ電話等 | 免許証リーダー・アルコール検査結果をリアルタイム共有 |
| 遠隔点呼 | 映像・音声を活用 | 一定要件を満たす場合に国交省が認可 |
| 自動点呼 | 機器による自動実施 | 一定要件下で認可、業務前自動点呼など機能拡張が進行中 |
運行管理者にとっては、こうした制度の変更を把握しておくことも、日々の業務を適切に行ううえで欠かせない知識のひとつです。制度は今後も見直しが続く見通しであり、業界団体や国土交通省が発信する最新情報を定期的に確認しておく姿勢が求められます。
導入によって運行管理者の仕事はどう変わったか(公開事例・ベンダー資料の第三者視点解説)
全日本トラック協会が公開している『中小トラック運送事業者のためのITベスト事例集』には、デジタコを導入した実際の運送会社の事例が紹介されています。粉体飼料の輸送を主力とするこの企業(営業所数1・車両台数16)は、事故削減と燃費改善を課題として、特殊車両7台にデジタコを導入しました。
その結果として報告されているのが、「事故はほとんどなくなった」「燃費は20%以上改善し、月間5万円以上のコスト削減ができた」という2点です。同事例集によれば、ドライバーのスコアと日頃の安全活動への取り組みを評価できる仕組みを作り、良い運転をするドライバーが評価される制度を整えたことに加え、運行管理者側にも無理な配送指示を行わないよう、全社で取り組んだことが、こうした成果につながったと分析されています。デジタコの導入自体が自動的に効果を生むのではなく、そのデータをどう活用し、運行管理者とドライバー双方の意識をどう変えていくかが、成果を左右する鍵になっていることがうかがえる事例です。
なお、この事例集にはデジタコ以外にも、配車システムや動態管理システムなど、様々なIT活用事例が紹介されています。共通しているのは、システムの導入そのものよりも、導入後にどう運用し、現場の意識をどう変えていくかというプロセスが、成果を左右しているという点です。IT・AIの活用を検討する運送会社にとって、こうした公開事例は、自社に近い規模・課題の会社がどのように取り組んだかを知るための貴重な参考資料になります。
この事例が示すように、運行管理者の役割は、システムを導入するだけで終わるものではありません。デジタコが出力する安全運転評価・経済運転評価のデータを日々確認し、数値が悪化しているドライバーがいれば早めに声をかける、逆に良好な数値を維持しているドライバーを評価する仕組みを整えるといった、データをもとにした継続的なマネジメント業務が、運行管理者の新しい役割として重要性を増しています。これは、従来の紙の日報を確認するだけの業務から、データを分析し、具体的なアクションにつなげる、より能動的な業務への変化だと言えます。
同時に、運行管理者自身にも変化が求められています。事例集の中で「運行管理者にも無理な配送指示を行わないように、全社で取り組んだ」と紹介されているように、ドライバーの安全運転を評価する仕組みを機能させるには、運行管理者側が無理のない運行計画を立てることも不可欠です。システムの導入は、ドライバーだけでなく、運行管理者自身の業務の進め方を見直すきっかけにもなり得るという点は、この事例から読み取れる重要な示唆のひとつです。
これから運行管理者を目指す人にとっても、この事例は参考になります。IT・AIの活用が進む中で求められるのは、システムを使いこなす技術的なスキルだけでなく、データをもとに現場のドライバーと丁寧にコミュニケーションを取り、行動変容を促すマネジメント能力です。デジタコやIT点呼が普及すればするほど、こうしたヒューマンスキルの重要性が相対的に高まっていくと考えられます。
AI点呼・デジタコの主要機能を公式ドキュメントから整理する
IT点呼サービスのひとつである「IT点呼キーパー」の公式サイトによると、同システムは全ての点呼機能を営業所別データで一元管理でき、営業所間での遠隔点呼や、スマートフォンを使ったテレビ電話感覚での点呼実施に対応しています。点呼結果は自動でクラウドに保存されるほか、免許証リーダーの読み込みによって有効期限切れを検知する機能や、アルコール検査結果をリアルタイムで共有する機能も備えています。同社は2026年4月に「業務前自動点呼」という新機能をリリースしており、対面によらない点呼の対象拡大が段階的に進んでいることが分かり、今後もこうした機能拡張が継続的に進んでいくものと見られており、今後も引き続きしっかりと注視しておく価値が、十分にあると言えるでしょう。
デジタコ側の機能としては、基本的な運行データの記録・分析に加えて、ETCシステムの利用データ記録、GPSを用いた車両動態管理、通信機能を使って位置情報や運転情報をリアルタイムに事務所へ送信するテレマティクス機能、庫内温度管理機能、ドライブレコーダー機能などを追加できる製品が一般的です。これらの機能は個別のベンダーによって組み合わせが異なるため、自社の課題(事故削減を重視するのか、燃費改善を重視するのか、温度管理が必要な荷物を扱うのかなど)に応じて、必要な機能を備えた製品を選ぶことが重要になります。
製品を比較検討する際は、初期導入費用や月額利用料といったコスト面だけでなく、既存の車両への設置のしやすさや、データの保存期間、他の業務システム(配車システムや会計ソフトなど)との連携のしやすさも確認しておくとよいでしょう。特に、複数の営業所を持つ運送会社の場合、全営業所のデータをクラウド上で一元管理できるかどうかは、運行管理者の業務効率に直結する重要な選定ポイントになります。営業所ごとに異なるシステムを個別導入してしまうと、全社的なデータの比較・分析がかえって難しくなるケースもあるため、将来的な事業拡大も見据えた製品選びが求められます。ベンダーによっては、導入前に無料トライアル期間を設けているところもあり、実際の運用イメージを確認したうえで導入を判断する会社も増えています。
運行管理者がAI活用のために今からできること(テキストプロンプト実例)
生成AIを使った文章作成の支援は、専用のB2B SaaSを導入しなくても、今すぐ試せる領域です。例えば、デジタコが出力した運転データのサマリーをもとに、ドライバーへのフィードバックコメントの下書きを作成する際、以下のようなプロンプトを使うことができます。
あなたは運送会社の運行管理者です。以下のドライバーの運転データをもとに、
安全運転を促す前向きなフィードバックコメントを150字程度で作成してください。
データ:急加速3回、急減速1回、アイドリング時間14.4%、平均速度62km/h
こうしたプロンプトを使えば、これまで運行管理者が手作業で書いていたコメント作成の下書きを、生成AIに任せることができます。プロンプトに具体的な数値データを含めることで、抽象的な励ましの言葉だけでなく、データに基づいた具体的なフィードバックを効率よく作成できる点がポイントです。ただし、生成された文章をそのまま使うのではなく、実際のドライバーの状況や人柄、日頃の関係性を踏まえて、運行管理者自身が最終的な表現を調整することが重要です。点呼記録の異常を確認するチェックリストの作成や、月次の安全運転報告書の構成案を作らせるといった用途にも、同様の考え方で生成AIを積極的に活用できます。新人の運行管理者向けに、点呼時に確認すべき項目をまとめたマニュアルの叩き台を作成させるといった使い方も考えられ、業務の標準化にも役立てられます。
いずれの用途でも、生成AIはあくまで下書きや構成案を作る補助ツールであり、点呼記録そのものの真正性や、法令で定められた記録要件を満たしているかどうかの最終確認は、運行管理者自身が行う必要がある点には注意が必要です。
生成AIの活用は、日報の要約作業にも応用できます。デジタコが出力する日々の運行データを、週次・月次でまとめて荷主向けの報告書を作成する際、以下のようなプロンプトが役立ちます。
以下の週次運行データをもとに、荷主向け報告書用の要約文を300字程度で作成してください。
専門用語は避け、走行実績・安全運転状況・特記事項が分かるようにまとめてください。
データ:総走行距離1,240km、平均安全運転スコア88点、急加速・急減速の発生なし、遅延1件(道路工事による迂回)
こうしたプロンプトを土台にしておけば、実際のデータを差し替えるだけで、報告書作成の下書きを短時間で用意できます。毎週・毎月同じ形式の報告書を作成している運行管理者にとっては、こうした定型的な文章作成業務の時間を短縮できることで、ドライバーとのコミュニケーションや、安全運転指導といった、より重要度の高い業務に時間を割けるようになるという利点があります。プロンプトの内容は、自社の報告書フォーマットや、荷主から求められる情報の粒度に合わせて、実際に使いながら試行錯誤し、少しずつ調整していくとよいでしょう。生成AIが出力した文章は、必ず人の目で事実確認を行ったうえで使用することが前提になります。荷主企業とのやり取りに使う文書である以上、誤った情報や不適切な表現が含まれていないかを、最終的に運行管理者が責任を持って確認するプロセスは省略できません。
よくある質問(運行管理業務のAI・IT活用に関するQ&A)
Q. IT点呼やデジタコを導入すれば、運行管理者の仕事は減りますか? A. 業務内容は変化しますが、単純に仕事が減るわけではありません。点呼記録の作成・保存といった定型作業は効率化される一方、蓄積されたデータをどう活用し、ドライバーの安全運転や労働環境の改善にどうつなげるかという、より判断力を要する業務の比重が高まる傾向があります。全日本トラック協会の事例集が示すように、システム任せにするのではなく、データをもとに運行管理者自身がどう行動するかが、成果を左右する重要な要素になります。
Q. 中小の運送会社でもデジタコやIT点呼を導入できますか? A. 導入できます。全日本トラック協会の事例集で紹介されている企業も、営業所数1・車両台数16という規模の中小企業です。製品によって価格帯や機能は異なるため、自社の車両台数や課題に合った製品を比較検討することをおすすめします。全ての車両に一斉導入するのではなく、事例集の企業のように、効果が期待できる特定の車両から段階的に導入するという進め方も、初期投資を抑えるうえで現実的な選択肢です。
Q. 運行管理者を目指す人は、こうしたシステムの知識が必須ですか? A. 必須ではありませんが、知っておくと有利です。多くの運送会社ですでに導入が進んでいるため、基本的な仕組みを理解しておくことで、入社後の実務にスムーズに対応しやすくなります。ドライバーから運行管理者を目指す場合も、現場での運転経験に加えて、こうしたデジタルツールへの理解を示せると、採用面接でのアピール材料になります。運行管理者資格の取得を目指す段階から、業界のデジタル化の動向に関心を持っておくとよいでしょう。
参照ソース
- 全日本トラック協会『中小トラック運送事業者のためのITベスト事例集』(デジタルタコグラフ事例) — デジタコ導入による事故削減・燃費改善の公開事例
- IT点呼キーパー公式サイト — IT点呼システムの機能と最新アップデート情報


